日銀が大規模な金融緩和策を修正することを決めた。今回の修正は、再び円安が進み、さらなる物価高への懸念が高まる中で行われ、円安の進行に一定の歯止めをかける狙いがうかがえる。ただ、円安・物価高を収める効果は限定的なものとなりそうで、引き続き物価高や景気減速に配慮しながら、日銀は難しいかじ取りを迫られる。(寺本康弘、大島宏一郎)
◆国債の「ゆがみ」も解消
 「今回は為替市場のボラティリティ(変動)も含めて考えている」
 決定会合後の記者会見で植田和男総裁は、この日の政策修正の理由として、為替市場を含む金融市場の変動の抑制を挙げた。日銀総裁が為替相場について言及するのは異例。過度な円安を抑えたいとの思惑を強くにじませた。
 一方で、昨年末から年初にかけて大規模緩和の副作用として、日銀が抑え込みに苦慮していた金利上昇は沈静化。債券市場で日銀が大量購入する10年物国債の金利水準が、より短期の国債よりも低くなるという「ゆがみ」も解消し「(債券市場は)きれい」(日銀関係者)との認識だ。
◆欧米は金利引き上げ、日本との差が拡大
 債券市場が落ち着く中、今回の決定会合で日銀が動いたのは円安・物価高への配慮がある。昨年春以降、世界的な物価高を受け欧米が金利を引き上げていく中で、日銀は金利を低く抑えてきたため海外との金利差が拡大したことで円安が急速に進行。昨年秋には1ドル=150円を超える水準となり、政府は円買いの為替介入に踏み切った。その後はいったん落ち着いたものの、今年に入り再び円安が進み最近は140円台をうかがう展開が続いていた。
 今週も米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)は金利を0.25%引き上げており、一段と円安が加速する可能性も高まっていた。第一生命経済研究所の藤代宏一氏は政策修正について「円安が1ドル=150円までいかないように、(金融)引き締め方向に持っていく意図があったのでは」とみる。
◆FRBは9月にも再度利上げか「今後も円安進む可能性」
 円安は輸入品の価格を押し上げ物価上昇に拍車をかける。21日に総務省が発表した6月の全国消費者物価指数では、生鮮食品を含む全体の指数の前年同月比上昇率が3.3%となり、3.0%だった米国を上回った。28日に発表された7月の東京都区部の消費者物価指数も高水準が続いており、生鮮食品を除く食料は9.0%の上昇となった。
 だが、日銀の政策修正に伴って金利が上昇すれば景気の足を引っ張る副作用がある上、円安を抑える効果についても限定的とみられる。FRBは次回の9月会合で再び利上げするとの市場の見方もあり、日米の金利差が縮まらないため「今後も円安は進む可能性が高い」(市場関係者)との声も根強い。

東京新聞 2023年7月29日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/266289