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「天ぷらにソース」東日本では埼玉だけの謎
 結婚や進学、転勤などを機に故郷から離れた土地で暮らすようになると「食文化」の違いに戸惑うことも少なくない。小さいころから慣れ親しんだ食べ方や味付けを巡り、カルチャーショックを受けることもあるようだ。

 東京都在住の会社員・A氏(32)は最近、新婚の妻が用意した食事に「違和感を覚えた」という。

「夕食のホワイトシチューと一緒に、中濃ソースが出てきたんです。埼玉県出身の妻曰く『自分の家ではシチューにソースをかけるのが当たり前。コクが出て美味しい』という。試すと不味くはないものの、やはりシチューはそのまま食べたい。些細なことですが、食習慣のギャップに驚いてしまいました」

 A氏夫妻は共に関東地方出身というが、基本的に日本の食文化圏は、本州の中央を南北に貫く大断層「糸魚川・静岡構造線」を境に大きく分かれるという。コラムニストで『決定版 天ぷらにソースをかけますか?』(ちくま文庫)の著者、野瀬泰申氏は「この線の西側には日本アルプスや飛騨山脈など険しい山々が連なっている。居住者や人の往来も少なかったため、東西の食文化が互いに伝わりにくかったのだろう」と分析する。

「全国の食文化分布を独自に調べたところ、天ぷらにソースをかけて食べるのが一般的な食文化圏は、ほぼこの構造線を境に西の地域です。また大阪を筆頭に、近畿圏ではカレーライスに生卵を混ぜ合わせて食べる文化がある。この食べ方は、カレーにソースをかける当地の食文化から派生したものと考えています」

 ソース文化の発祥は西日本という見方だが、例外もあるようだ。野瀬氏が続ける。

「“天ぷらにソース”派が圧倒的少数の東日本で唯一、埼玉県だけソース派が半数を占めるというデータがあります。その理由として、旧・鳩ヶ谷市(現・川口市)にあるブルドックソースの工場との関連を考えるようになりました。旧・鳩ヶ谷市は埼玉県では珍しいソースの町で、現在はソース焼きうどんがご当地グルメとして認知されつつあります」

同じエリアでも県境を越えると食べ方が変わる
 こうした例は、「天ぷらにソース」に限った話ではない。コンビニの冬の定番商品「中華まん」も、東西で食べ方が異なってくるという。

「豚肉入りの中華まんは、東では『肉まん』、西では『豚まん』と呼ばれます。食べ方もさまざまで、東日本は『何もつけない』派が多い。一方、西日本では、鹿児島県を除く九州地方と山口県が『酢醤油』、関西から中国地方は『辛子および辛子醤油』をつけるのが一般的です」(野瀬氏)

 毎年、夏場になると盛り上がるのが「冷やし中華にマヨネーズ」論争だ。とくに愛知・岐阜・三重の中京圏とその周辺、東日本では福島県をはじめ東北地方の一部で、この食べ方を好む人が多いそうだ。

「これらの地域では、飲食店やスーパーの冷やし中華にもマヨネーズが添えられていることがほとんどです。ただ、総務省の家計調査を見ても、当該地域でマヨネーズの消費量が突出している傾向はない。なぜか冷やし中華に限って、マヨネーズとの組み合わせが好まれているのです」(野瀬氏)

 同じエリアでも、県境を越えれば食べ方や味付けががらりと変わることもある。

「東北各地では芋煮会が盛んに行なわれますが、山形県では『牛肉+醤油』の組み合わせが一般的なのに対し、お隣の宮城県や福島県では『豚肉+味噌』がデフォルト。そのため、東北中から人が集まる仙台市では、芋煮の味付けを巡る小競り合いが起こることも珍しくないそうです」(野瀬氏)

 日ごろ口にしている料理や食材も、たまには違う食べ方をすると新発見があるかもしれない。

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