コロナの感染拡大で死者が増え続ける韓国。それでも理屈をこねて「我が国の防疫の方が上」と日本を見下すのが韓国人だ。韓国観察者の鈴置高史氏はそこに絶望的な劣等感を嗅ぎ取る。

自然免疫が日本を救った
鈴置:韓国で、新手の日本蔑視論が登場しました。「日本はコロナの検査を十分にしなかった。そのため無症状の感染者が増え、結果的に自然に集団免疫が備わった」という主張です。

 要は、韓国がコロナの感染拡大に苦しんでいる一方で、日本が感染者を大きく減らすことができたのは「けがの功名」に過ぎない、と言うのです。ハンギョレの「知らず知らずに集団免疫?日本の『新型コロナ急減』ミステリー」(12月9日、日本語版)から引用します。筆者はキム・ソヨン東京特派員。

・日本は、新型コロナパンデミックが発生した初期、韓国のような徹底的遺伝子増幅(PCR)検査をしておらず、「自然免疫」を持つ人が増えた。こうした状況で8月にワクチン接種率が50%を超え、社会全体の耐性が強まったということだ。

「集団免疫説」はまったく根拠がありません。もし、そうなら抗体を持つ人の比率が日本では圧倒的に高いはずですが、そんなデータはどこにもありません。

 そもそも、「日本は韓国のように徹底的PCR検査をしていない」というのが俗説なのです。感染が始まった当初、濃厚接触者に限って検査を実施する、という方針で臨んだのは日本も韓国も同じでした(「コロナ対策で『文在寅』の人気急上昇 選挙を控え『韓国すごいぞ!』と国民を“洗脳”」参照)。

 韓国がパンデミック初期――2020年2月から3月にかけ、大量検査を実施したのは第4の都市、大邱で巨大なクラスターが発生したためです。人の往来を制限して大邱を封鎖したうえ、市内での感染拡大を食い止めるため大量の検査をしたに過ぎません。なお、「大量」と言っても、当時の検査数は2月末の段階で1日に1万件前後。このペースだと、韓国人全員を検査するのに14年はかかります。

 日本では大邱のような巨大なクラスターが発生していないのに韓国では起きた――。韓国人が劣等感を爆発させかねないこの事態を前に、文在寅(ムン・ジェイン)政権は「検査数で日本に勝った!」とプロパガンダすることで、怒りの矛先をかわしたのです。

 日本でもテレビのワイドショーなどが韓国の宣伝を鵜呑みにして「安倍は負けた」と騒いだものですから、多くの日本人も「韓国の検査体制は日本よりも優れている」と信じ込んだのです。

馬脚を現したK防疫
――ハンギョレはなぜ、こんないい加減なことを書くのでしょうか。

鈴置:文在寅政権に対し今、再び批判が高まっているからです。重症患者も病院に収容できず、医療崩壊が起きています。12月22日には1日109人と、初めて100人台の死者を出しました。この政権が自画自賛してきた「K防疫」の馬脚がくっきりと現れたのです。

 保守系紙は「菅義偉首相(当時)は米政府にかけ合い、ファイザーのワクチンを確保して感染者急減に成功した。一方、文在寅大統領はワクチン獲得に完全に出遅れたため、効き目が長続きしないアストラゼネカを重症化しやすい高齢者に打ち、今の惨状を招いた」と政治責任を追及し始めました。

 御用新聞と揶揄される左派系紙のハンギョレとすれば、保守の政権批判に反論せねばなりません。それには国民の目を「ワクチン」からそらすのが一番。そこで「日本は自然に免疫を得た」とのロジックを展開したと思われます。

 筆者のキム・ソヨン特派員もさすがに無視はできなかったのでしょう、日韓で接種したワクチンの種類が異なることには触れています。しかし、結論部分では「韓日で10歳代の接種率に差があるといったワクチン説には限界がある」と決め付けたうえで「自然免疫説」を強調しました。

 それに「自然免疫説」を打ち出せば「日本の検査数の少なさ」に焦点を当てられます。「検査をしっかりやった文在寅政権」を再び宣伝できるわけです。この記事の最後のくだりが以下です。

・この仮説(自然免疫説)が正しいならば、現在の韓国を危機に追い立てたのは、徹底したK-防疫のせいということにもなる。恐るべき「防疫の逆説」になるわけだ。

つづき
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/12280559/