雑煮はお正月に食べる定番料理の一つですが、毎年、高齢者を中心に「餅」を喉に詰まらせ、亡くなる人がいます。調理する人が餅を小さく切ったり、かみ切りやすいように、やわらかく煮たりして注意すればよいことなので、調理側や本人の食べ方の問題のように思われがちですが、一方で、「餅の製造者に責任を問うことができる」という声もあります。

 雑煮の餅で窒息した場合、製造者に責任を問えるのは本当でしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

餅に対する日本人の認識
Q.雑煮などの餅で窒息した場合、製造者に責任を問えるのは本当でしょうか。

佐藤さん「本当です。責任を問うこと自体は可能です。製造者は製造物の“欠陥”により、他人の生命や身体、または財産を侵害したときは損害を賠償する責任を負うからです(製造物責任法3条)。しかし、実際に責任が認められるケースは極めて限定的だと考えられます。

一般的に餅は粘り気があり、かみ切りにくい食品であり、日本では古くから、『餅とは喉を詰まらせやすい食品だ』と認識されながら親しまれてきました。従って、餅とは本来そういうものであり、一般的な餅を製造しただけで、それが“欠陥”であると評価されることはないでしょう」

Q.餅の製造者に責任を問えるとすれば、どのようなケースですか。

佐藤さん「一般的な餅とは異なり、窒息事故を起こしやすい特徴を備えた餅を製造するなど、特殊なケースでは“欠陥”と認められ、責任が認められる可能性もあります。製造者の責任を問う方法としては、先述の製造物責任法に基づく請求のほかにも、不法行為責任(民法709条)を追及することも可能です。

ただし、不法行為責任が認められるためには、製造者の『故意または過失』を立証することが必要です。窒息に関する故意や過失を立証するハードルは高く、不法行為責任が認められるケースも少ないでしょう」

Q.仮に亡くなったり、医療機関で治療したりする事態になったとき、損害賠償は請求できるのでしょうか。

佐藤さん「ここまで述べたように、極めて珍しいケースと思われますが、餅に“欠陥”が認められたり、製造者の過失が認められたりして、製造者側に法的責任を追及するのが可能なケースでは、損害賠償請求することができます。医療機関で治療が必要になれば、治療費や入院費、慰謝料などを損害として請求できます。亡くなってしまった場合、死亡逸失利益(亡くならなければ本来得られたはずの収入)や死亡慰謝料なども請求することになるでしょう」

Q.雑煮などの餅で喉を詰まらせた場合、例えば、飲食店のような調理する側に責任はないのでしょうか。

佐藤さん「製造者に対して法的責任を追及するのが難しいように、飲食店側の責任を追及することも難しいのが一般的です。特殊な調理方法のせいで、通常の餅より、喉を詰まらせやすい状態で料理を提供したといった例外的なケースでは、責任が生じる可能性もあります。しかし、一般的な餅料理を提供した場合、飲食店と客との間の契約違反とは認められず、飲食店側に過失があるともいえないため、法的責任を問うことはできないでしょう」

Q.やはり、一般的には「食べる人の自己責任」となるのでしょうか。

佐藤さん「餅は比較的、喉を詰まらせやすい食品ではありますが、有害物質が含まれているというような『食品自体が危険』なものではなく、食べ方に起因して危険性が生じるものです。そのため、原則、餅を詰まらせる事故は自己責任になることがほとんどです。