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イギリスのボリス・ジョンソン首相の人気は急落中(2021年12月) HENRY NICHOLLS-REUTERS

<国民に厳しいロックダウンを課していたさなかのパーティー疑惑で完全に信頼を失った英ジョンソン首相。政策はおおむね国民の支持を得ていたのに、人格で完全に見離されたからむしろ根が深い>

2年前、ボリス・ジョンソン英首相はのりにのっていた。2019年12月の総選挙でジョンソン率いる与党・保守党は安定多数を獲得し、今後5年間の統治と大胆なブレグジット計画実施を託された。

しかも、保守党は労働党の牙城だったイングランド北部の労働者階級の多い地域、いわゆる「赤い壁」に歴史的な突破口を開いた。それはジョンソンが一時的な首相ではなく歴史上の重要人物となり、保守党支配の新時代が来る可能性を意味していた。

特権乱用を許さないイギリス人の国民性

しかし、それも過去の話。新型コロナウイルス対策で政府が国民にロックダウン(都市封鎖)を強いるなか、その規則を破るようなパーティーが首相官邸で開催されていたことが次々と明らかになり、ジョンソンの人気は急落している。彼が説得力のない説明をし、取り繕うような謝罪をしても、国民をなだめるには何の役にも立っていない。

北部地域で選出された新米の保守党議員たちの怒りはとりわけ大きい(他党へ鞍替えした議員もいた)。彼らは今回の一件のあおりを受けて次の選挙で議席を失う可能性が最も高いからだ。

もともとの不支持層を怒らせることと、大事な支持者にそっぽを向かれてしまうことでは、話が違う。世論調査によれば、アルコールも出たというこの集まりを、ロックダウン下の違法なパーティーではなくて合法的な職務上のイベントだった、とジョンソンが言い張った時、彼の言い分を信用できないと答えたのは、保守党支持者ですら40%に上った。

ダブルスタンダードを喜んで許す人なんて誰もいないが、イギリス人はフェアプレーを求める意識がとりわけ高いようだ。長い行列に黙って並び、横入りには厳しい反応を見せる国民性からもそれがうかがえる。他の国では、権力者が特権を乱用するのを「仕方ないさ、そんなものだろう」と見逃す風潮もあるようだが、イギリスはそうはいかない。

普通の状況なら、ジョンソンは有権者との対立を恐れるべきではない。彼は16年の国民投票後、紆余曲折を経て、約束どおりイギリスをEUから離脱させた。

ジョンソン政権は、イギリスが「構造的な人種差別主義者」で「白人特権の国」だというBLM(黒人の命は大切)運動の主張をおとなしく受け入れたりしなかった。気候変動への取り組みに関しては、イギリスは今も世界をリードしている。

パンデミック対策は評価が分かれるところだが、「まあマシ」と考えられている。イギリスの死者数が比較的多いのは各国の統計手法の違いも一因だし、ワクチンの普及と比較的早い時期の経済再開は、まあ成功例だろうと捉えられている。