中国は軍事的覇権拡大を進め、北朝鮮は迎撃困難な極超音速ミサイルを発射するなど、日本の安全保障環境が悪化している。岸田文雄首相は「敵基地攻撃能力の保有」を検討課題に挙げるが、立憲民主党の泉健太代表は「相手に打撃を与えたら、その後に総反撃を受ける」として否定的見解を示した。米海兵隊出身で、歴史研究家のマックス・フォン・シュラー氏が「抑止力」や「国防」について緊急寄稿した。

泉代表の国会発言(24日、衆院予算委員会)を聞いて、私は頭を抱えた。「相手に打撃を与えたら反撃を受けるので、攻撃を断念する」というのは、まさに「抑止力」の基本的な考え方である。泉代表は途中までは正解なのだが、なぜか結論が違っている。日本には「軍事のことが分かっているの?」と不安になる国会議員が多い。

中国やロシア、北朝鮮が軍備拡大を進めるなか、日本は米国との同盟関係を深化させ、ミサイル防衛(MD)を構築して抑止力を維持してきた。ただ、極超音速や変則軌道を描くミサイルの出現で、MDが通用しなくなってきたため、「敵基地攻撃能力の保有」などが検討されている。

重要なのは、国民の生命と財産を守るために、「どうやって自国の抑止力を高めるか」である。

日本列島の周囲には、領空と防空識別圏が設定されている。事前申告なく接近しそうな不審な航空機には、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)で対応する。その航空機が日本の主権下にある領空を侵犯し、攻撃やテロ行為を行う危険性があるからだ。

国際法上、他国の航空機の領空侵犯に対しては、警告を発した後、撃墜を含めて実力で排除することが認められている。国を守るとは、そういう厳然たるものだ。

泉代表は、国際法で認められた一連の行為も、「反撃を受ける」として否定的なのだろうか。

私は米海兵隊員として来日し、かつては米軍情報局で秘密調査などに従事してきた。日本に48年も住んでいる。日本が、米国がつくった憲法を70年以上も持ち続け、憲法9条で苦労していることも知っている。でも、軍隊の歴史を勉強していくと、1つの現実が分かる。

それは、軍事力が強い国が豊かな生活と存在を守れるということだ。軍事力が弱い国は消え去り、国民は惨めになる。

ローマ帝国を例にしよう。西ローマ帝国は、自分たちでは戦わず別の民族に防衛を任したため、最終的に征服された(476年)。東ローマ帝国は、マラズギルトの戦い(1071年)でイスラム軍に負けて弱体化し、コンスタンティノープルの陥落(1453年)で滅亡した。

日米同盟は重要だが、それだけに依存してはダメだ。日本の周囲には、敵意を持った国々が多々ある。「自分の国は自分で守る」べきなのだ。

■マックス・フォン・シュラー 1956年、米国シカゴ生まれ。74年に米軍海兵隊として来日、米軍情報局で秘密調査などに従事。退役後、歴史研究家。ユーチューブ公式チャンネル「軍事歴史がMAXわかる!」でも情報発信中。著書に『アメリカはクーデターによって、社会主義国家になってしまった』(青林堂)、『アメリカ人が語る 日本人に隠しておけないアメリカの崩壊=x(ハート出版)、『アメリカ人が語る アメリカが隠しておきたい日本の歴史』(同)など。

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