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岸田文雄・首相の「賃上げ要請」に財界側も前向きな姿勢を見せている(写真/JMPA)

 今年の春闘はこの国に「給料が上がらない時代」からのパラダイム・チェンジを予感させる。岸田文雄・首相が経済界に「3%賃上げ」を要請し、連合の芳野友子会長は「日本の賃金は20年以上にわたって上がっていない」とベア2%、定昇を合わせて4%の賃上げを目標に掲げた。

 首相の賃上げ要請は春闘の時期の“恒例行事”だが、これまでと違うのは財界側が前向きになっていることだ。

 オミクロン株の感染急拡大にもかかわらず、日本には業績絶好調の企業が多い。今年3月期決算では過去最高益を記録する企業が続出すると予想されており、経団連の十倉雅和会長は「収益が拡大している企業は積極的に賃上げを行なうべき」と号令をかけた。雑誌『経済界』編集局長の関慎夫氏が語る。

「経営者はなぜ日本がこれまで経済成長できなかったかが分かってきた。企業は長い間、業績悪化を理由に賃上げを渋り、その結果、日本の所得水準は1997年をピークに下がり続け、国際的に見ても貧しくなってきた。国内市場は小さくなるばかりです。これでは日本経済にとって駄目だと認識して、経営者は所得の底上げに舵を切り始めた」

 労組側も、中間決算で過去最高益を出したトヨタ労組は月給の6.9か月分の一時金に加え、職制別のベアを要求する方針を固め、ホンダ労組はベアと手当で月3000円を要求。日立、パナソニックなど大手電機メーカー12社も統一基準で前年比1.5倍のベア3000円を要求する方針だ。

 トヨタ自動車に聞くと「まだ要求が出されていませんが、出された段階で真摯に真剣に議論して参ります」(広報部)と回答、今後の対応が注目されることは間違いない。

 給料アップのテコになるのが、政府が導入した「賃上げ促進税制」だ。大企業や中堅企業では社員の給与やボーナスの総額が前年よりも「3%以上」増えた場合、増額分の15%を法人税から減税し、「4%以上」増えると減税額(控除率)を25%まで拡大する。中小企業でも水準を変えて同様の制度となる。

「中小企業の6割は赤字。賃上げ税制は効果がない」という批判もあるが、資本金10億円以上の企業が貯め込んだ内部留保(利益剰余金)は2020年度末には過去最高の466兆円に達しており、業績好調な企業ほど賃上げによる減税効果は大きい。

 中小企業も、「人材不足は深刻、赤字でも賃上げしないと人材確保できなくなっている」(人事担当者)という状況だ。前出の関氏が言う。

「給料が上がれば、個人消費の拡大につながるし、賃上げする企業にとってはコストが増えるから、生産性もおのずと改善されるわけです」

 現在、ガソリンや食品の値上げが相次ぎ、日銀は今年の物価見通しをプラス1.1%に上方修正した。賃金が上がらずにインフレが進む「悪い物価上昇」が心配されている。

 しかし、この春闘をきっかけに日本社会が賃金上昇時代に入り、消費が拡大、それに伴って物価が上がるなら「良い物価上昇」に変わり、日本経済は再びかつてのような力強い成長路線に向かう。

※週刊ポスト2022年2月11日号

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