1月27日に沖縄市で発生した、スクーターを運転していた17歳の男子高校生と巡回中の警察官が接触した事故。高校生が右目の眼球破裂で失明する大けがを負ったことで、怒った約300人の若者たちが沖縄署を襲撃する暴動にも発展した。なぜこのような“事故”が起きたのか。背景には、沖縄独特のかたちで発展した「暴走族」と、それを取り締まる警察との“因縁”があるという。

警棒を手に持っていた巡査
「2週間前の成人式からの流れがあったと思います。本土でも有名ですが、毎年、沖縄の成人式は、ド派手な格好をした新成人たちがやりたい放題、“お祭り”のような騒ぎを起こす。そんな若者たちの浮かれた空気感が、今回の悲劇の背景にあったのでは」

 沖縄在住のカメラマンはこのように分析する。

 沖縄県警の当初の発表は、市内で暴走族を取り締まっていた男性巡査(29)が、スクーターを運転中の少年(17)に「職務質問をしようと制止を呼びかけた際に接触した」というもの。だが、少年の親族は「巡査が警棒で殴ってきた」と反論。その主張がSNS上で広まると、「真実を隠蔽している警察は許しがたい」と暴動に発展した。真相究明が求められるなか、事故から1週間が経った2月3日、県警は事故発生時、男性巡査が警棒を手に持った状態だったことを認めた。今後、警棒の使用が適正だったかを調査するという。

 事故が発生したのは深夜1時ごろ。少年は友人らと「コンビニの駐車場でたむろしていた」という。補導されることを恐れた少年が、スクーターに乗って細道を逃げた際の出来事だった点については、双方の争いはない。

成人式で“暴走”していたスクーター族
 少なくとも深夜に徘徊していたという非行行為があったのは事実だが、少年側は「暴走には参加していない」と主張しているという。暴走族と少年は、まったく関係なかったのか。

「関係なかったようです。ただ、沖縄では必ずしもスクーターだからといって、暴走族ではないとも言えない事情があるのです。実際、本物の暴走族を応援したり援護したりするスクーター部隊が大勢いるので、巡査も力を入れて警戒してしまった可能性がある」(同・カメラマン)

 カメラマンは成人式の日、市内最大の歓楽街、呉屋交差点付近で取材中に、パトカーの進路を妨害する3台のスクーターを目撃した。

「ちょうど交差点付近で、軽トラックの荷台に乗ったド派手な紋付袴をまとった新成人たちが、自分の名前が書かれた幟を振り回し、どんちゃん騒ぎをしながら通りがかかった。その軽トラを追いかけようとしたパトカーにスクーター部隊が割り込んできたのです。恐らく先輩たちを守ろうとした後輩たちなのでしょう。パトカーは反対車線から追い抜こうとしたのですが、スクーター部隊はのろのろ走りながら前方を遮って進路を妨げていました。『止まりなさい』と制止しても気にする様子もありませんでした」(同・カメラマン)

 もちろん、カメラマンが目撃したスクーター部隊が、今回事故に遭った少年だったわけではない。だが、沖縄にはこうした暴走行為を手助けするスクーターが多く、警察は「暴走族」と同じ括りで見ているというのだ。

 沖縄の暴走族を20年以上も取材してきたジャーナリストの岩橋健一郎氏によれば、彼らは「ちびかめ」と呼ばれているという。

「方言からそう呼ぶらしいのですが、黒づくめの格好でスクーターに二人乗りしています。全盛期の90年代は、沖縄に60から70チーム、1000人くらいの暴走族が存在しました。しかし法律が厳しくなり、いまは十数台あるかくらいです。その代わりに増えたのが『ちびかめ』。警察と暴走族のチェイスになると、彼らがその間に入って援護するのです」

 流行の背景には、オートバイの価格高騰化がある。

「本土から三段シートが装備された旧車を取り寄せるとなると、部品も含めて100万円以上はします。中学校を卒業したばかりの子供が免許取るのに30万、そのうえで本格的な族車なんて難しい。100cc前後で二人乗りも可能なスクーターを乗り回すのです。値段も手頃。小回りもよくて機動力がある」(同・岩橋氏)