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現地時間3月4日、ロシア軍とウクライナ軍の衝突が首都キエフ近郊のイルピンに迫るにつれて、まだ空席がある列車に乗ろうと急ぐウクライナ市民。その多くは女性と子供たち。(Photo by Marcus Yam/Los Angeles Times/Getty Images)

米キリスト教伝道師のパット・ロバートソン氏を筆頭に、キリスト教プロテスタント保守派は「神に強要されて」プーチン大統領が戦争を仕掛け、この世を終わらせようとしていると信じて疑わない。

ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した翌日、グレッグ・ローリー牧師は迷える子羊たちのためにある動画をFacebookに投稿した。全世界の崩壊をもくろむ誇大妄想的かつ権威主義的な陰謀——世間の大半は、現状をこのように捉えている。だがローリー氏は、一部のキリスト教徒にとってウクライナ侵攻はまったく別の意味をもつと主張する。彼らにとってウクライナ侵攻は、救世主イエス・キリストの再臨の兆しなのだ。投稿されたメッセージは、「いま、ウクライナで起きていることに預言的な意味合いがあると思いますか?」という一文で始まる。「答えは……イエスです!」

数千年にわたり、キリスト教終末論の信者たちは、かなり強引な方法で時事問題とキリストの再臨が近い証を結びつけてきた。彼らは、『エゼキエル書』、『ダニエル書』、『マタイによる福音書』といった旧約聖書の預言書や新約聖書の『ヨハネの黙示録』の預言的なことばを引き合いに出しては、ありとあらゆる理論を構築した。プロテスタント保守派や原理主義的な宗派が信奉するこうした理論の大半は、世界の終わりを次のようにとらえている。再建された平和なイスラエルに「ゴグとマゴグ」という勢力が「はるか北方」から攻めてくる。『エゼキエル書』によると、イスラエルでは「さまざまな国からやってきた人々が安全に暮らしていた」。そこに戦争が勃発し、救世主がイスラエルに救いの手を差し伸べる。それに加えて私たちが知るところの世界の終わりが訪れ、より良い神の国が地上に新たに建設される。

古代以来、ありとあらゆる世代があの手この手で「自分たちが世界の終わりを生きている」ことを証明しようとしてきた。「終末論の美点のひとつは、それが変幻自在であるということです」と、アメリカ北東部ニューハンプシャー州のダートマス大学でアメリカの宗教を研究しているランダール・バルマー教授は指摘する。「要するに、特定の状況に合わせて理論をねじ曲げたり変えたりすることができるのです。それに加えて、こうした理論を信じる人々は、未来を知っていることを理由に歴史の支配者になったかのような感覚を抱くことができます」

キリスト教終末論の信者たち

はるか昔から、ゴグとマゴグという存在は、バビロニア帝国、ローマ帝国、バイキングといった歴史上の勢力に置き換えられてきた。この系譜にロシアが加わったのは冷戦時代のことである。当時のアメリカ人キリスト教徒の大半は、自国を「新たなイスラエル」になぞらえ、ソビエト連邦を「ゴグとマゴグ」(地理的にも「はるか北方」という聖書のことばと一致する)に、時の大統領ミハイル・ゴルバチョフをキリストの敵「アンチクライスト」とみなした(おまけにゴルバチョフの額には、「(黙示録の)野獣の刻印」があるではないか)。核戦争という黙示録さながらの脅威に加えて1948年に近代国家イスラエルが誕生したことは、預言が現実となり、世界の終わりがいよいよ近づいていることの証ととらえられた。