致命的といえる兵站の軽視
 ロシアによるウクライナ侵攻から間もなく3週間が経ちます。ロシア軍はウクライナの首都キエフまであと少しのところにまで迫っていますが、進軍スピードは大幅に減速。開戦当初の猛攻も今はでは見る影もありません。世界第2位の軍事大国であるロシアですが、なぜこんなにも苦戦しているのでしょうか。

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燃料切れか故障かで無傷のままウクライナ領内に遺棄されたロシア軍のT-72B3戦車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 改めて振り返ってみると、今回のウクライナ侵攻には色々と無理がありました。こうした大規模な侵攻作戦は、初期段階で数日間に渡る航空攻撃や砲撃などを行い、相手の対空警戒網や通信網を破壊し、さらには軍事拠点などを攻撃して相手の反撃を最低限に抑え込む行動を取ります。しかし、プーチン大統領は十分な航空攻撃を行わず、侵攻当日に早々と地上軍を繰り出しました。

 この愚策ともいえる行動。これは筆者(矢作真弓/武若雅哉:軍事フォトライター)の推測ですが、ロシアはウクライナをすぐに掌握することができると考え、勢いでなんとかしようとしたのでしょう。

 そのため、長期の戦闘を考慮しない“短期決戦”計画を立てたと思われるのですが、案の定、そこには大きな落とし穴がありました。

 ロシア軍の正規軍人はウクライナ軍の約8倍となる約90万人います。そのうち、約15万人がウクライナに侵攻したと考えられていますが、この15万人という数字、実は陸上自衛隊の定員数と同じです。

 これだけの大規模な部隊を一度に投入できることはロシア軍の強みであるものの、その一方で、ロシア軍が「兵站」を軽視したことは致命的ともいえます。

兵站に重要な前線部隊との距離感
 ロシア軍が想定していた以上にウクライナ軍の反撃が激しかったことも誤算のひとつではありますが、兵站に関してはそれを上回る大誤算といっても良いでしょう。

 そもそも「兵站」とは、英語では「logistics(ロジスティクス)」といい、食料、燃料、弾薬、通信、整備、医療などの各機能を集約した言葉です。ゆえに、陸上自衛隊では後方支援と呼ばれるもので、活動するうえで欠かすことのできない分野としてそれぞれを担当する専任の部隊を用意しているほどです。

 自衛隊に限らず世界中の軍隊で、この兵站能力は部隊の行動を維持するために必要不可欠なものとみなしており、特に作戦行動が長期化すればするほど、この兵站能力の差がモノをいうようになってきます。

 逆に、兵站能力をある程度無視できる場合もあります。ただ、それは長くても1週間程度の短期決戦に限られます。つまり、それ以上の長期に渡る行動には兵站の充実が部隊を円滑に動かす秘訣になるといえるでしょう。

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弾薬を積載したまま遺棄されていたロシア軍のトラック(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 なお、この兵站は前線に進出する部隊との距離感も大切になります。世界の軍隊でひとつの目安として語られているのは、兵站拠点から300km程度離れると十分なサービスを供給しにくくなるということです。