ウクライナのゼレンスキー大統領は4月18日にロシア軍が「『ドンバスの戦い』を開始した」と述べ、同国東部2州制圧を目指し本格的な攻勢に入ったとした。ロシア側もラブロフ外相が同19日に作戦が「新たな段階に入った」と表明した。ロシアが当面の戦略目標をドンバス地方占領などに変更した、この「ドンバスの戦い」は、これまでとは違うと予想され、西側のウクライナへの支援も戦車など重装備の供与へと変化している。これは単に供与する兵器が変わっただけでなく、戦争そのものの本質的な変化も意味する。

これまで西側の支援は、ジャベリンやNLAWなどの携行式対戦車ミサイル・火器や自爆型ドローン、弾薬といった小型の兵器類や通信やレーダー画像、衛星画像などの情報にとどまっていた。

もちろんこの情報は非常に大事で、北大西洋条約機構(NATO)は偵察衛星、AWACS、E−8ジョイントスターズなどによりロシア軍の位置や行動を把握し、ウクライナ軍に提供することで戦車などの撃破につながっている。

しかもそれにとどまらず、将官の居場所を把握して殺害に結びついているのは間違いない。開戦以来、死亡した将官は9人(推定を含む)と異常な数だが、なかでもアンドレイ・スホベツキー少将は通信傍受などで居場所を把握され狙撃されたとみられている。

これまでの西側の支援は効果を上げていたと評価できるが、ウクライナはMiG―29戦闘機、T−72戦車、地対空ミサイルシステムS−300など自軍に不足している重装備の供与も求めていた。

だが西側は及び腰だった。ポーランドが自国のMIG−29を一度米国に引き渡してウクライナに供与すると提案したものの、米国はロシアとの全面対決の可能性を理由に受け取りを拒否するほど。裏を返せば、対戦車ミサイルレベルの兵器供与でロシア軍に打撃を与えれば、戦争が収束すると考えていたといえる。

それがここにきて態度を一変させた。主導するのは米国だ。4月2日、同盟国からのT−72戦車などの供与を決定した。戦車供与は初。これを受けてNATO加盟国のチェコが4月5日にT−72などを発送したと発表。8日には同じくNATO加盟国のスロバキアがS−300を供与したと公表した。

米国はさらに13日、155ミリ榴弾砲18門と砲弾4万発を自国から供与すると発表した。榴弾砲供与も初めて。21日には72門、砲弾14万4000発を追加すると発表し、1コ砲兵連隊分以上という多数の榴弾砲を送ることになった。今後も、特に砲弾は消耗品なので追加は確実だ。

なぜこの変化が起きたのか。それはロシアの当面の戦略目標変更と指揮系統の改善による。ロシアは、キーウ占領によってゼレンスキー政権の崩壊を招くこと、東部ドンバス地方の占領、南部の占領によるクリミア半島とロシアの地続き化が戦略目標だった。

しかしキーウ攻略は失敗。ドンバス地方占領に当面の目標を絞って戦力を集中させている。米国防総省は、4月18日までの数日間に東部と南部で11コ大隊戦術群(BTG)が追加投入され、計76コBTGになったとしている。1コBTGは700〜1000人だから、1万人程度が増強された。大半は東部に投入されているのではないか。