自立して生活をするバリキャリで、スラリとした長身の美人だ。最初にやってきたのは昨年末のこと。そのときは、大手結婚相談所で出会った男性と結婚の話が進んでいるのだが、このまま結婚していいものかどうかで悩んでいた。

「38歳のときから、3カ所の結婚相談所を渡り歩いてきました。お見合いを100人近くしたのにうまくいかなかった。そんな中でやっと出会った男性なんです」

それが田渕則雄(44歳、仮名)だった。大手のメーカーに勤めていて、年収は800万ほど。たまたま同じ町に住んでいて、お互いに一人暮らし。ウィークデーの会社終わりに地元で会えたことも、2人の仲を急速に近づけた。3回、4回と会っていくうちに、互いの家を行き来するようになり、男女の関係にもなった。

なぜ結婚を悩んでいるのか。それは、ささいなことにもキレて怒り出す則雄の性格にあった。深い関係になる前から、取るに足らないことで気分を害するのが目についたが、互いの家を行き来する仲になると、感情をむき出しで怒るようになった。

最初に爆発したのは、知恵の家で、手作りした夕食を食べているときのことだった。

「彼が鼻水をタラーッと垂らして、それがテーブルに落ちたんです。だから、『風邪ひいたの? 鼻水ふいてよ。おかずに入るじゃない』って言ったんです。そのとき、私が少し顔をしかめたのかもしれません。『お前だって、風邪ひけば鼻水くらい垂らすだろう!』って、ものすごい勢いで怒りだしたんです。箸をバン!とテーブルの上に置いて、そのまま自分の家に帰ってしまった」

ところが、家に帰った則雄から、すぐに謝りの電話がかかってきた。

「ごめん。風邪をひいて体調が悪くてイライラしていた。せっかく夕食を作ってくれたのに悪かったよ。風邪が治ったら埋め合わせするから。何かおいしいものを食べに行こう」

しおらしく謝られると、彼が愛おしくなり、“これからは私も言い方に気をつけよう”と思った。

しかしながら、その後もささいなことで怒りだすことが続いた。則雄の家で豚肉の生姜焼きを作り、キャベツの千切りと合わせてお皿に盛りつけ、食卓に出したときのこと。知恵が生姜焼きばかりを食べていると、「キャベツも食べろよ」と急に語気を荒らげ、食事をするのをやめて別の部屋に行ってしまった。ソファーに並んで座ってテレビを見ていたときのこと。知恵はじゃれあいのつもりで、ふくよかな則雄のお腹の肉をつまみ、「これは、なんだ~~」とおどけると、「何するんだよ!」と、その手をパンとはねのけ、驚くほどの大声で怒鳴りだした。

また、コンビニの若い女性店員から不愉快な対応された知恵が、そのことを愚痴ったときのこと。「俺がお前を不愉快にさせたわけじゃないだろう。こっちは疲れてるんだ。くだらない話するな!」とキレて、デートの途中で家に帰ってしまった。