いまにも脈打ちそう。

この写真、なんだと思います? ぱっと見はイソギンチャクとかの体内の模型? ひょっとしたらアートかも……いえ、これはロケットのエンジン。

Hyperganic社が設計、AMCM社が3Dプリントした、エアロスパイク・ロケットエンジンの試作品です。

打ち上げから宇宙まで1台で間に合うエアロスパイク・エンジン

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ベル型ノズルのロケットエンジン
Photo: Shutterstock

いま主流のロケットエンジンは「ベル型ノズル」を採用しています。燃料を燃やして吹き出るガスを、ベルのようなノズルを通して一方向に向けることで推力を得るしくみ。

とにかくパワーが出せるのがウリですが、周囲の大気圧に応じて最適なノズルの形状が変わるため、宇宙行きロケットを作るときは多段式にして、地上近く~高高度~ほぼ真空と、周囲の環境に応じて複数のノズル形状のエンジンを用意する必要があります。

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NASAが試作したエアロスパイクエンジン
Photo: NASA

一方、「エアロスパイク」と呼ばれるロケットエンジンは、噴き出るガスの真ん中に三角形のスパイクを通し、ガスをスパイクにそわせることで一方向に向けます。

大気圧に関係なく一定のパワーを出せるため、これ1つで地上から宇宙空間まで安定して推力を得られる...つまり、エンジンをたくさん用意する必要がないのです。宇宙行きロケットに応用できれば、複雑な多段式ロケットではなくロケット本体のみで宇宙まで行けるSSTO(単段式宇宙輸送機)を実現できるかもしれません。

メリットの多いエアロスパイク式ですが、いままで実現できなかったのにはもちろん理由があります。高温のガスの真ん中にあるスパイクがあっという間に溶けてしまうんですね。ガスの燃焼とスパイクの冷却のバランスをとることがとても難しく、いままで実現にはこぎつけられませんでした。

AIが設計し、3Dプリンタが生み出す

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Image: Hyperganic

そこで登場するのがAIを利用した設計手法。

アルゴリズムがガスの燃焼室、スパイクの冷却システム、燃料噴出システムなどを計算し、求められるエンジンの大きさと推力から、複雑なロケットの形状を導き出すのです。

トポロジー最適化を使っているので、こんな生物っぽい構造になっているんですね。宇宙生物みたいで少しキモいようにも思いますが、生物が備える合理性に近づいた結果なのかもしれません。

また、この複雑な形状は普通の金属加工方法では製造できないため、3Dプリンタで製造されます。このエンジンは銅でプリントされており、全長80cmほどあります。

このエンジンはまだまだデモで、いますぐロケットに載せられるものじゃないです。でもこの技術が発展すれば...いまより宇宙がもっと近づくでしょうね。

新しいロケットのアイデアいろいろ
Source: Hyperganic

https://www.gizmodo.jp/2022/05/hyperganic-aerospike-rocket-engine.html