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「M777」榴弾砲(ロイター)

ロシア軍がウクライナ東部ドンバス地方で、攻勢を強めている。すでにルガンスク州の95%を占領、最後の砦である要衝セベロドネツク市の包囲もほぼ完了し、一部で突入作戦も始まった。ドネツク州でも攻撃が激化している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア軍との圧倒的な装備の差を強く訴える。西側諸国は新たな武器供与を表明するが、6月の「大反撃」に向けて一刻の猶予もない。

ルガンスク州のガイダイ知事は27日、通信アプリへの投稿で、ウクライナ軍の同州からの撤退が「可能性としてあり得る」との考えを示した。

セベロドネツク市の市長は、同市の「周囲3分の2がロシア軍に占拠された」とした。補給路は既に遮断状態との分析も出ている。同市が陥落すれば州全域が制圧される可能性がある。

ドネツク州でもロシア軍が大規模な砲撃を加えており、ポドリャク大統領府長官顧問は「ロシア軍は人々を生きたまま焼いている」と非難した。

軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「侵攻当初、ロシア軍は戦線を広げ過ぎたことで補給ラインをつぶされ苦戦していた。今は戦線をコンパクトに絞り、補給網が安定している東部戦線に集中したことで優位に立った。ただ、決して大きく勝っているわけではない」とみる。

CNNテレビは26日、ジョー・バイデン米政権がウクライナに対し、最大射程300キロの強力兵器である多連装ロケットシステムの供与を検討していると報じた。

ロイド・オースティン米国防長官は23日、ウクライナに対し約20カ国が弾薬や戦車など新たな軍事支援を表明したと明かした。デンマークは対艦ミサイル「ハープーン」の提供を発表。ロシア軍による黒海沿岸周辺の封鎖を破り、停滞する穀物輸出などを再開させる狙いとみられる。

ハープーンは米ボーイング社製で、海上からの発射を想定しているが、デンマークは地上発射型を保有している。軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「西側諸国にとっては主要な対艦ミサイルだ。水面近くを低空飛行し、敵からの探知を受けにくい」と解説する。

カナダ国防省は24日、ウクライナに155ミリ口径火砲用の砲弾2万発以上の提供を発表した。カナダや米国が提供したM777榴弾砲などに使える砲弾だ。

M777は英国が開発し米軍が採用した榴弾砲で、米ニューヨーク・タイムズは「西側がこれまでに提供した最も殺傷力の高い兵器」と報じている。「重量が約4トンと軽量で、汎用(はんよう)ヘリで空輸できることが最大の利点だ。一方、M777の口径は155ミリでウクライナ軍が使用する152ミリ口径の砲台とは使い勝手が異なり兵士を訓練する必要があった」と前出の世良氏。

米国はウクライナ兵200人に対し、M777の操作訓練を完了させた。米欧の重火器は、6月にも前線に届き始める見通しだが、23日、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)にオンラインで演説したゼレンスキー氏は「ドンバス地方でロシア軍はウクライナ軍と比べ20倍の装備を有している」とし、さらなる軍事支援を訴えた。

前出の黒井氏は、今後の展望をこうみる。

「ウクライナは兵士の数でロシアを圧倒するが、全員が正規兵ではなく榴弾砲など高度な武器を使うには訓練が必要だ。比較的使いやすい対戦車ミサイル『ジャベリン』などの供与も受けているが、ゼレンスキー氏は今後も戦闘が長期化することを見越して訓練を要する武器も要望しているのだろう。訓練には数カ月かかり、8月ごろには操作できる兵も増えるだろうが、それまでは一進一退の攻防を耐えることになる」

https://www.zakzak.co.jp/article/20220528-JR6IQENIH5PY7H66NQ3E7MWHY4/