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ロシア軍のTOS-1訓練(2018年)|Yevgeny Kel / Wikimedia Commons

ロシア軍はウクライナ東部の戦闘に、燃料気化爆弾を大量に投入している模様だ。真空状態を生み強い衝撃波を生じることから、真空爆弾とも呼ばれる。地下壕をも破壊する能力をもち、通常兵器としては最恐の部類に入る。

◆「最も恐ろしい通常兵器のひとつ」
 ニューヨーク・タイムズ紙(5月29日、以下「NYT」)はウクライナおよびイギリス当局からの映像をもとに、「ロシアは同国の最も恐ろしい通常兵器の一種を、ウクライナ東部の戦闘において大量に使用している」と報じた。この兵器は多連装ロケットランチャー「TOS-1」から発射される燃料気化爆弾だ。車載ランチャーから発射され、敵陣に着弾すると猛烈な勢いで爆発する。バンカー(地下壕)を破壊するほか、塹壕内に隠れた兵士にも威力が及ぶ。

 ウクライナ国防省(5月26日)は、燃料気化爆弾が複数回炸裂する動画をツイートし、その恐ろしさを訴えた。「ドネツク地方ノヴォミクヒリヴカ付近にあるウクライナの軍事拠点を爆撃するロシアのTOS-1A。これが21世紀で最も大規模かつ最も身の毛のよだつ戦争の姿です」

russian TOS-1A shelling Ukrainian positions near Novomykhailivka, Donetsk region. This is what the the largest and most horrific war of the 21st century looks like. Ukraine is ready to strike back. To do this, we need NATO-style MLRS. Immediately. pic.twitter.com/XwdBfAfEq8

— Defence of Ukraine (@DefenceU) May 26, 2022

◆強力な燃焼で真空状態に
 ロシアのTOS-1兵器システムは、2段階で炸裂する無誘導弾を発射する。着弾すると1回目の爆発を生じ、内部に充てんされたアルミやマグネシウムなどの粉末金属あるいは有機物など、爆発性の高い混合物を周囲に撒き散らす。数ミリ秒後には2度目の爆発を生じてこれらが発火し、巨大な火の玉が出現する。周囲の酸素を大量に消費することで局所的な真空状態を生み、気圧差による強い衝撃波が広範囲に伝播するしくみだ。衝撃は極めて強く、たとえビルの中にいようとも爆発と無縁ではない。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(5月27日)は、火球の直径内にいない人々に対しても「致命的」なダメージを与えるとしている。

 燃料気化爆弾は1980年代に開発され、かつてはソ連の軍事力の象徴でもあった。ただしNYT紙は欠点もあると説明する。射程距離が約10キロと短く、敵陣まで接近する必要があることから、待ち伏せ攻撃に弱い。3月にはキーウ郊外で待ち伏せしていたウクライナ部隊が、実際にロシアの燃料気化爆弾を爆破している。

◆攻撃受けたウクライナ軍、その威力を語る
 燃料気化爆弾は広範囲に対して強い殺傷効果を生じる。米インサイダー誌(5月27日)は、「非常に破壊的であり、人体を蒸発させ、内臓をつぶす能力をもつ」と説明している。

 実際に攻撃を受けたウクライナ95旅団司令官のイェヘン・シャマタリウク大佐はNYT紙に対し、「地面の揺れを感じます」「非常に破壊的です。バンカーを破壊します。中にいる者たちの上に崩れ落ちるのです」と証言している。一命を取り留めた兵士たちも、重傷は避けられない。ウクライナ側衛生兵は同紙に、手当した兵士たちに「深い重度の」火傷がみられ、衝撃波による脳しんとうを併発していると語った。

 燃料気化爆弾はジュネーブ条約では禁止されていないが、人道的見地から議論を呼びそうだ。

https://newsphere.jp/world-report/20220530-2/
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