「家族へのこだわり」が犯罪や引きこもりを生み出す
阿部氏は、加害者家族の支援をはじめる前、引きこもりの家族をサポートする事業をしていた。そこでも家族の問題を大きく感じたという。

「過干渉だったり、子どもの将来を決めてしまうとか、そういうことをする親たちがほとんどでしたね。営利事業のサポートで雇うくらいだから、利用者は裕福な家庭が多かったんですよ。そういう中で家族はすごく悩んでいたし、家の中もめちゃくちゃだったんです。引きこもりのお子さんを自立させるのに3年くらいかかりました」

親は、「子どもを何とかしてください」と相談に来る。しかし、阿部氏は引きこもり本人よりも、親とのコミュニケーションが一番大事だと言う。とくに、家庭のことに対して知らないふりをする父と話をすると、変化も大きいそうだ。
父を家庭の問題に参加させれば、妻との会話が増える。夫婦仲が良くなると、母の関心が息子だけでなく夫に分散する。すると、息子とほどよく距離が取れ、関係が良好になる。このようにして阿部氏は、夫婦の距離が遠ければ近づけ、近すぎれば離す。夫婦の関係性が、引きこもりの子どもを変えていくのだという。
「世の中って、経済的に困っている家庭のほうが問題が多いようなイメージがあるじゃないですか。でも良い家のほうが、世間体があるから大変なんだなあと思いましたね。そこは加害者家族の状況を見ていて、まさにピタッときました」

引きこもりを生み出す家庭も、犯罪者を生み出す家庭も、「家族へのこだわり」が強く、そのゆがみに敏感に反応する人間が怒りを溜め込むという点で、構造が似ているという。

「無差別殺傷で、女の犯人っていないでしょう」
「無差別に人を巻き込む人は、ルサンチマンというか劣等感はすごいですよね、みなさん。無差別じゃないけど、『野田市小4虐待死事件』の勇一郎さんも、自分の親をすごく尊敬しているんですよ。4人家族でマイホームを買って……という生活をすごく当たり前で最低限の幸せと彼は考えている。

けど、現実は全然そうはいかなかった。収入も少ないし、妻は精神障害で暴れるし、子どもはなつかない。最低限と思っていることが何もできなくて、劣等感はすごくあったと思うんですよね」

勇一郎の場合、一人で子育てをしていたという経緯がある。仕事もして、子育てもして、収入も少ないとなれば、立ち行かなくなるのは当然だが、彼はサポートを受けることなく劣等感をつのらせていた。なぜ、サポートを受けなかったのか?

児童相談所が介入し、虐待が明るみに出れば、父としての未熟さが浮き彫りになり、プライドを傷つけられると感じていたのだろう。そこには男性特有のヒエラルキーの意識を感じる。


「無差別殺傷で、女の犯人ってほとんどいないでしょう。男ですよね、やっぱり。劣等感とか、勝ち負けとかのヒエラルキーがはっきりするのが男のような気がしますね」

(*編集部注)法務省の調査「無差別殺傷事犯に関する研究」によると、調査対象となった52名の無差別殺傷犯のうち、ひとりを除いてすべて男性である。

殺人犯だと疑われる独身男性