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フエさんのタイムカード(撮影)出井康博

【水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇】#50

 都内の朝日新聞販売所で新聞奨学生として働き始めたキエット君(21)は、留学生に認められる週28時間を超える就労を強いられた。そこで彼を販売所に斡旋した「朝日奨学会」に相談したが、対処してもらえなかった。

「仕事が週28時間で終わらないのは、僕の仕事が遅いからだ、と。でも、絶対に遅くないですよ」

 そう話すキエット君の仕事ぶりを確かめるため、私は彼の夕刊配達を自転車で追いかけてみた。1年以上の経験者だけあって、彼は原付バイクを手足のように操り、住宅街を走り抜けていく。そして350部の夕刊を2時間半で配り終えた。

 配達現場を知る人であれば、彼の仕事のスピードがわかるはずだ。それでも就労時間は週35~36時間に及ぶ。朝刊500部、夕刊350部の配達の他に、チラシの折り込み作業などもあるからだ。キエット君が言う。

■我慢を強いられるベトナム人奨学生

「法律に違反して働いているのは僕だけではない。知り合いのベトナム人奨学生は、ほとんどがそう。皆、仕方なく我慢しているんです」

 私はそれぞれ別の朝日販売所で働くベトナム人奨学生たち数人から、タイムカードの写真を送ってもらってみた。すると全員が週28時間を超えて働いていた。中には600部もの朝刊配達を任され、週40時間以上働いている者もいた。

 もちろん、これだけでベトナム人奨学生が皆、違法就労を強いられているなどと言うつもりはない。しかし昨年7月、朝日新聞が電子版「GLOBE+」の記事で、ベトナム人奨学生たちは<1週間28時間までに制限された労働時間の範囲で新聞を配る>と当然のこととして書いたのは、明らかに事実に反している。自らの奨学生制度を正当化したい意図があるのかどうか知らないが、ベトナム人たちの実態が全く伝えられていないお手盛りの記事だ。

 私が取材したフエさん(仮名.20)という女性の奨学生も、週40時間働いていた。勝ち気な彼女は販売所の経営者に対し、就労時間を減らせないなら残業代を支払ってほしいと訴えた。だが、軽くあしらわれてしまう。

「留学生は週28時間までしか働けないことになっている。だから残業代は払えない」

 実に身勝手な論理だが、弱い立場のベトナム人たちにはどうすることもできない。

 フエさんの不満は他にもある。「4週4休」を販売所が「月4休」と解釈し、月の5週目は休みを取らせてもらえない。就労6カ月が経過すれば10日認められるはずの有給休暇もない。

「奨学会には相談しました。でも『仕方ない』と言われるだけでした」

 フエさんは月10万~12万円の手取り給与から毎月1万円の「奨学会費」を天引きされている。にもかかわらず、奨学会に助けを求めても取り合ってもらえない。それどころか、奨学会はベトナム人奨学生に対し、日本人との差別待遇まで制度として課しているのだ。 (つづく)

(出井康博/ジャーナリスト)

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/306912