6月7日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、「中国海軍の大躍進:カンボジアでの基地は北京の世界的軍事野望の最新のしるしである」との社説を掲載し、警鐘を鳴らしている。

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 このWSJの社説は、時宜を得た問題提起をしているいい社説である。中国海軍が大躍進しているというのはその通りである。東シナ海、南シナ海での中国海軍の活動に加え、世界的に中国海軍が基地のネットワークを作ろうとしている。大西洋に接する西アフリカにまで軍事基地を作ろうとしている。

 WSJの社説が特に警笛を鳴らすのは、米中の海軍力の戦略バランスが、中国に優位に働いている点と、中国が世界的に基地のネットワークを秘密裡に、段階的に構築している点である。前者については、中国が現在の355隻から2030年までに460隻に増強する計画があるのに対して、米海軍は、現在の297隻から27年には280隻にまで減少すると言われている。日本がそれを補填する海軍力を増強できるかは、今後の動きに関わってくる。

 中国の海のネットワーク化は、着実に進んでいる。まずは主要な港湾を、スリランカやギリシャ、イタリア等でおさえ、中東のアラブ首長国連邦(UAE)等とも関係を深め、さらにはアフリカのジブチやケニア、モーリタニアにまで及んでいる。

 最近では、ソロモン諸島と安全保障協定を結び、その他の南太平洋の島嶼諸国とも同様の協定を締結しようとしている。中国は、最初は、民間経済やインフラ整備から各国に介入し、次第に警察の治安部隊、軍事的関与にまで触手を伸ばす。

 中国が何を目的としているかについては、政治的影響力の強化、軍事的影響力の強化、及び制裁を課された場合の資源確保などであろう。中国のこの動きには十分注意していく必要がある。太平洋諸国については、日本も、豪州や米国と協力して、中国に対抗していく必要があろう。

日本にも求められる海軍力の増強
 タイ湾の海域については、カンボジアでの基地建設について関心国と意見交換をしていく必要もある。タイやベトナムがカンボジアでの中国海軍基地を歓迎しないことはほぼ明らかであり、実りのある話し合いになる可能性がある。

 タイ湾からインドに向かう海域については、ミャンマーがあり、中国が進出してくる可能性が高い。中国は、既にミャンマーの軍事政権に対しては、相当の武器供与をしている。日本は、自由で開かれたインド・太平洋構想の推進の観点から、インドともこの問題で協力の余地がないか、考えたらよい。

 この問題については、外交面でやれることも案外あるのではないかと思われるが、より大きい問題は、海軍力の増強である。米海軍が相対的に力を落とす中、日本の海軍力も強化すべきであろう。日本の防衛予算は増額が必須であるが、それをどこに振り向けていくかについて、このWSJ社説の問題提起を考慮すべきであろう。

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