日本製の台所用刃物の人気が海外で高まっている。中部5県からの2021年の輸出額は61億円と過去最高を更新し、20年前の4倍以上に伸びた。欧米を中心に和食ブームが続いていることに加え、コロナ禍による巣ごもり需要が追い風となっている。(藤井竜太郎)

34年連続国内1位

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 名古屋税関によると、東海3県に静岡、長野両県を含めた管内からの包丁や調理用ナイフなどの台所用刃物の21年の輸出額は、前年比19・3%増の61億3900万円となった。全国の輸出額も118億4200万円で過去最高を更新したが、名古屋税関管内が51・8%を占め、2位の大阪税関管内(26・4%)に大きく差をつけている。

 輸出数量は、全国の748万本に対し、名古屋税関管内が7割超となる547万本。数量は、前年比5・4%の微増だが、平均単価が990円から1121円に上昇。単価は20年前の約3倍にまでなっている。

 税関別では、名古屋税関が輸出額、数量ともに34年連続1位となった。

巣ごもり需要
 21年の輸出先を地域別でみると、数量ベースで最も多いのは、中東で221万本だった。主に比較的安価な小型の調理用ナイフが大量に輸出されており、名古屋税関の担当者は、「石油の産地で富裕層が多く、主に使用人が調理するため、道具へのこだわりはそれほど強くないためでは」と分析している。

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 一方、金額ベースでトップだったのが北米で26億4600万円。ドイツやオランダなどの西欧が16億4100万円で続いた。切れ味が良く耐久性にも優れている高価格帯の包丁が人気で、セットで購入するケースも多いという。

 人気の背景の一つに、13年の国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録を機に広がった和食ブームがある。日本輸出刃物工業組合の桜田公明専務は「海外で和食を調理する際に日本製の包丁を使うことにこだわる人が増え、使い分ける人も多いと聞く」と指摘。さらに、「コロナ禍で自宅で料理をする人が増え、欧米を中心に高価格だが高品質な包丁の人気が高まっている」と話す。

関の出荷額ダントツ
 名古屋税関がダントツの輸出を誇るのは、刃物の一大産地として知られる岐阜県関市の存在が大きい。

 政府の工業統計調査によると、20年の関市からの包丁の出荷額は96億1400万円と全国の46・2%を占める。イギリス・シェフィールドやドイツ・ゾーリンゲンとともに世界三大刃物産地とされ、「関の刃物」は世界的なブランドとなっている。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)では、輸出を考えている企業に専門家を派遣したり、コロナ禍で需要が高まる電子商取引(EC)を活用したりして海外への販路の拡大を支援している。ジェトロ岐阜貿易情報センターの大沢淳所長は「関の刃物は50年以上前に輸出が始まっており、海外での認知度は高いが、まだまだビジネスを広げる余地はある。新規の輸出や輸出先の拡大を積極的に支援していきたい」と話している。

  ◆関の刃物= 鎌倉時代の刀作りが始まりとされ、良質な土、水、松炭に恵まれた土地で多くの刀匠が集まった。明治時代以降、刀の需要がなくなると、ポケットナイフの製造をきっかけに近代刃物の産地として発展した。現在では、包丁やはさみ、カミソリなど多品種を生産している。2008年には、特許庁が定める地域団体商標として登録された。

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