マルハゲ、キタマクラ、オジサン……見た目や特徴で不本意な名前を付けられた魚たち。その中でも、もっとも「辛い俗称」を持つ魚がアイゴではないか。

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釣り人から忌み嫌われるアイゴ

 一部の釣り人からは、内臓がアンモニア臭いことからバリ(尿)と呼ばれている。人間界のあだ名では完全にアウトな「小便」とまで称される始末……。

 アイゴと言えば強い引きから釣り味は一級であるにもかかわらず、正体が分かった途端にため息がこぼれるほど「望まれないゲスト魚」でもある。そんなアイゴが近年、関東圏で復仇のごとく大繁殖しており、磯焼けの原因になると漁業的側面でも問題になっている。

 各方面から虐げられているアイゴの名誉を回復したい。そんな思いから釣り人目線でアイゴの利用価値を見直すべく、実際に釣って食べてみることにした。

釣り人に嫌われる理由とは
 アイゴがリリース対象となる理由は主に2つ。

 1つは前述した体内の臭いだ。魚の内臓は基本的に臭いのだが、アイゴの内臓は特に尿を連想させるアンモニア臭を含み、お腹を割いた瞬間から臭う個体もいる。釣れた直後に内臓を取り出せば問題ないとされるが、釣り場で行う手間を考えるとリリースする釣り人の方が多い。

 2つ目は毒魚であること。フグのように血液や内臓ではなく、ゴンズイやハオコゼのように鰭(ひれ)にタンパク性の毒を持つタイプだ。

 リリースでさえ棘に刺されるリスクが生じるので、ただのエサ取りではすまない厄介な魚としてアイゴは忌み嫌われている。一部には食用としている地域もあるのだが……。

アイゴの繁殖が生態系に影響を及ぼす?
 アイゴ地獄で釣り人が泣きを見るだけなら、我々が我慢すればよい。しかし、神奈川県の三浦半島では、アイゴの繁殖が原因で磯焼けが進んでいるという。

 磯焼けとは、岩礁帯に生えたコンブなどの海藻を植食生物が食べることで、磯が剥き出し状態になる現象をいう。海藻の減少は海洋生物の産卵場、稚魚の餌場、身を寄せる隠れ場の消失にも繋がるので、少なからず生態系に影響が及ぶ。

 磯焼けの原因はアイゴに限った話ではなく、ガンガゼの摂餌行動や海水温の上昇など複合的ではあるが、三浦半島の相模湾側のアマモの減少がアイゴによる可能性が高いとの報告もあるほど影響力は高まっている。

 私も以前、城ヶ島で釣りをした際に堤防にいる釣り人全員がアイゴしか釣れなかった時は、状況の深刻さを身をもって実感した。そりゃバリ島と呼ばれるわけだ……。

 もちろん、この無限に湧くアイゴの生命を維持する食料供給源は容易に想像できた。

 釣り人に何かできないか、微力ながらも釣れたアイゴを食べることにした。

実際に釣ったアイゴを食べてみた
 アイゴを食べるうえで注意する点は毒鰭の切除だ。今回は釣った後に脳天締め、血抜きを施して、完全に動かなくなったことを確認して毒を持つ背鰭、腹鰭、尻鰭をハサミで落とした。

 本来ならこの時点で内臓も取り除く。しかし俗称の由来からすると想像しがたいが、内臓こそアイゴの真の味覚であるという地域もあるほど実は美味いらしい。ならばと直ぐにでも取り出したい衝動を抑えて、検証としてそのままクーラーにしまった。