フランスではこのところ「ラブ・ルーム」の発展が目覚ましい。「ラブ・ルーム」とは、日本でいうラブホテルのことだ。実際フランスでは「日本発祥」と説明されている。だが、そのコンセプトは日本のそれとは似て非なるもののようだ。

◆コロナで得た悟り? カルペ・ディエム
 もともとフランスをはじめ欧州には、日本でいうラブホテルは存在しない。フランスとベルギーのラブルーム検索サイト『Love’nSpa』によれば、日本のラブホテルに発想を得た最初のラブ・ルームがフランスに生まれたのは2005年ごろだった。それがここ数年にわかに増加し始めたのは、ひとつには映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015)の影響があると言われている。また、新型コロナによるパンデミックを経験し、もっといまを楽しもうという意識が生まれたことも大きいと指摘する声もある。

◆ラブ・ルームへの投資法が説かれるほどポピュラーに
 いずれにせよ、フランスでラブ・ルームが増えているのは確かだ。バイス(1/20)によると、今年初めの時点でフランスのラブ・ルームが1000軒近くになった。ウェスト・フランス紙(1/22)によれば、フランス西部ヴァンデ県では2021年の1年でラブ・ルームの数は3倍になった。そのほか、ラブ・ルーム専用の検索サイトも複数誕生し、宿泊予約サイトのブッキングドットコムにもフランスの宿泊施設に「ラブホテル」カテゴリーができている。また、フランスの投資情報サイトなどは、ラブ・ルーム経営投資法を説く記事も載せているほどだ。

◆SMキットからロマンティックな演出まで
 日本伝来といわれる「ラブ・ルーム」だが、そのコンセプトは日本のそれとまったく同じわけではない。一般のカップルが親密な時間を過ごすために利用する場所、という基本は共通しているが、たとえばまず、日本と異なりフランスではその「親密な時間」は夜に限られる。つまりどの施設も時間借りはなく、一泊ごとの利用となる。

 内装については、フランスのラブ・ルームはそれぞれ個性的でこういうものとは一言で言えない。しかし、手錠つきのX型クロスや、鞭などのSMグッズ、エロティックな形の置物や椅子、鏡張りの天井などを備えるいかにもな部屋がある一方で、ベッドの上に薔薇の花びらが散りばめられていたり、キャンドルライトが照明に使われたりというロマンティックな装飾を施す部屋も目立つ。

◆ラグジュアリーな体験
 フランスのラブ・ルームには「ラグジュアリー」という言葉が合う。ジャグジーやハンマーム、または専用プールなどが併設されたスイートやマンションタイプの施設も少なくない。シャンパンもプレゼントあるいはオプションでの必須アイテムだ。

 その贅沢さは値段にも出ており、『Love’n Spa』によれば、パリにおいては一泊130~450ユーロ(約1万8000~6万1000円)かかる。地方なら安いかと言えばそういうわけでもなく、ブルターニュ地方に最近できたラブ・ルームは一泊300~350ユーロ(約4万1000~4万8000円)(フランス3、8/1)。ヴァンデ県のものは180~240ユーロ(約2万5000~3万3000円)かかる(ウェスト・フランス紙)。

◆「旅行」に代わる日常からの脱却手段
 高額で非現実的な環境が、日常からの脱却を図りたいカップルの人気を得る鍵になったとも考えられる。コロナ禍で旅行に出かけにくい時間が続いたことも、ラブ・ルーム人気に貢献したのではないだろうか。

 フランスではラブ・ルームで過ごす週末で、2人の記念日をロマンティックに演出したり、結婚の申し込みのためのムード作りをしたりという例もあるようだ。日本のラブホテルとは一味違うフランスのラブ・ルーム。いつまで人気が続くのか興味深い。

https://newsphere.jp/business/20220808-1/