韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が17日に会見し、いわゆる“元徴用工問題”について「日本と衝突しない方策を講じる」と発言しました。

現金化のタイムリミットが迫る中、一体どうなるのでしょうか?

■“元徴用工問題”とは

いわゆる元徴用工問題とは、戦時中に強制労働させられたと主張する韓国人らが損害賠償を求めて裁判を起こしたもので、韓国の最高裁にあたる大法院が2018年に日本企業に賠償を命令。

日本側はこの判決について1965年の「日韓請求権協定」で解決済みとして、支払いを拒否するなど対立が続いています。

売却命令確定となると、冷え込んでいる日韓関係が、より厳しい状況になるのは避けられません。

尹大統領は「日本と衝突しない方策を講じる」としていますが、リミットが迫る中、カギを握るのは韓国の最高裁・大法院です。

早ければ19日にも日本企業に対する資産の売却命令が確定する可能性もあり、タイムリミットが迫っているこの問題。

現金化が「ある時」と「ない時」について、朝鮮半島問題に詳しい龍谷大学・李相哲教授に解説してもらいます。

■現金化が「ある時」

韓国の最高裁判所にあたる大法院で日本企業の資産売却命令が確定すれば、日本企業が韓国国内で持っている特許や株など約1億円が3カ月ほどで現金化され、元徴用工への賠償に使われる見込みです。

――Q:この現金化のプロセス、また3カ月という期間についてどうみられますか?

【李教授】

「まず3カ月という期間ですが、19日に最高裁が資産売却命令を確定させても、日本企業の特許や株の価値を調べるのは3カ月ほどかかります。しかし、『支払いなさい』という命令を出したことには変わりないので、確定してしまうと、日韓関係が最悪な状態に陥ります。修復できません。“賠償する”という判決はすでに出ていて、そのお金を誰がどこから出すかというところで、日本企業の特許や株は差し押さえられています。日本企業は再抗告をしていますが、それを棄却するかどうかというリミットに来ているんです。再抗告が棄却されれば現金化は実行されます」

――Q:その判断が19日かもしれない、ということなんですね。日本側は強気の姿勢で、7月の自民党外交部会では「抗議とか遺憾というレベルではない。対抗措置をシミュレーションしている」という発言が出たそうですが、具体的にどんな対抗措置が考えられますか?

【李教授】

「日本企業に対する実害が出た場合は、対抗措置として、韓国企業が日本で企業活動をしにくいようにするなんらかの措置、経済制裁などを検討している可能性があります」

■現金化が「ない時」

資産売却命令の判決を確定させずに“棚上げ”にした場合、時間が生まれます。

尹大統領は日本と衝突しない方法を模索しているので、この間に原告団を交渉のテーブルに戻し、韓国政府主導で原告団に補償するという流れに持ち込みたい考えです。

――Q:尹大統領は、8月12日時点での韓国国内の支持率は25パーセントと厳しい状態ですが…こちらはどうみられますか?

【李教授】

「原告側に対する救済はせざるを得ないという判決が韓国国内で出ていますが、しかし、それと日本との外交問題は別物です。現金化が実行されれば日本との関係が修復不可能になるので、韓国政府は外務省を通して裁判所に意見書を出しました。それを考慮して“棚上げ”にしてくれたら、時間をかけて話し合いができる。しかし、日本にも協力をしてほしいというのが尹大統領の率直な気持ちだとは思います」

――Q:日韓請求権協定で決着がついているという立場の日本が、歩み寄りをするかですが…現金化されずに棚上げになった場合、日本政府が何か歩み寄ってアクションを起こすと思われますか?

【李教授】

「個人的には2つできると思っています。1つは日本にほとんど実害のない、韓国の(安全保障上の輸出管理において優遇される)ホワイト国リストへの復活。日本企業にとってもプラスになりますし。もう1つは、新たな謝罪はしなくとも、過去に発表した日本政府の立場を再確認するということでもう一度発表すれば、韓国国内で被害者を説得するような、世論を味方につける追い風になると思われます」

果たして、資産売却命令は確定するのでしょうか。

19日の大法院の判断に注目です。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月18日放送)

https://www.ktv.jp/news/feature/220818-1/?id=a34422fc8f83f407bb1e88a8d934acace