故安倍晋三元首相の国葬を巡り岸田文雄首相が衆参両院の議院運営委員会で開かれた閉会中審査に出席し、質疑に応じた。

 しかし、首相は従来の説明を繰り返すにとどまり、国民の幅広い理解が得られたとは言い難い。国葬形式での実施は再考し、内閣葬や内閣・自民党合同葬への切り替えを検討すべきではないか。

 首相は国葬の法的根拠に、国の儀式に関する事務を内閣府の所掌と定めた内閣府設置法を挙げ、国の儀式を行う権限は「行政権に属する」として、閣議決定による国葬実施の正当性を強調した。

 ただ、国葬の基準を定めた法律がないことは認めざるを得ず、国権の最高機関である国会に諮らなかったことについても「批判は謙虚に受け止める」と述べた。

 首相は国葬とする理由に、憲政史上最長の在任期間や外国から相次いで弔意が寄せられていることなどを挙げたが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関係が指摘される安倍氏の歴史的評価は定まっていない。

 野党側は、首相が社会的に問題がある旧統一教会との関係を断つと言明しつつ、安倍氏を国葬とする矛盾を指摘したものの、首相は正面から答えなかった。

 報道各社の世論調査では国葬反対は50%前後に達し、賛成を上回る。反対は日を追うごとに増える傾向にあり、このまま国葬を強行すれば、世論のさらなる分断を生むことは避けられまい。

 首相は当初、国葬を「敬意と弔意を国全体として表す国の公式行事」と説明していたが、閉会中審査では「国全体」の表現を控え、地方公共団体や教育委員会、一般国民には弔意表明を求めない考えを強調した。国を挙げて弔うことは事実上断念したに等しい。ならば国葬である必要があるのか。

 過去の首相経験者の内閣・自民党合同葬にも各国首脳らが参列し弔問外交に支障はなかった。

 政府が閣議決定で決められるのは内閣葬や政党などとの合同葬までだ。首相がこのまま国葬形式での実施にこだわり続けるなら、故人を静かに見送ることすら難しくなりかねない。

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