「まさにモスラだった」

 北海道滝川市で生花業を営む男性は恐怖体験をそう語る。

 今年8月、記者は旭川イジメ事件の取材のため北海道を訪れた。広く真っ直ぐ延びた大地でハンドルを握るのも20回目を超えて慣れたもののはずが、違和感を感じたのは日没後のことだった。紅葉の時期にはまだ早かったが、行く先々の街灯下の道路には黄土色の“枯葉のようなもの”が散乱し、風でひらひら舞っていた。

 “枯葉”は車のフロントガラスにも大量に降ってくる。ワイパーを動かしてもウォッシャー液を噴射してもひっきりなしだ。信号待ちでよく見ると、それが枯葉ではないことに気がついた。

「蛾だ」

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道路に落ちて枯れ葉のように見えるのがクスサン(目撃者提供)

 道を覆うほどの蛾の大群。風に揺れていたのではなく、羽が動いていたのだ。蛾の群れは森林からコンビニ、街中の至る所に大量発生していた。日中も旭川市内のアパートの壁や階段、玄関に蛾の集団が所せましと張りつき、異様な光景になっていた。だが、蛾の被害は旭川市内だけではなく、上川管内の近隣地域でも同様の被害に見舞われていた。

『バサッ、バサッ』と不気味な羽の音が
 滝川市在住の男性が語る。

「趣味で夜にソフトテニスをするんですけど、とてつもない量の蛾がテニスコートを埋め尽くしていて、動くたびに体に蛾にあたり、ラケットに当たるのがボールなのか蛾なのかわらない状態でその日はすぐに切り上げました」

 別の男性は大量の蛾に驚いて、思わず動画を撮ったという。

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ビニールハウスの機材に張り付くクスサン(目撃者提供)

「9月1日に上川郡比布町のサービスエリアに立ち寄った時に、建物に茶色い“何か”がびっしりついていて、最初は木の葉だと思いました。しかし、近づいてみるとそれらはすべて蛾。電灯の近くを通った時は『バサッ、バサッ』と不気味な羽の音がしました」

 住人を恐怖に陥れている巨大蛾の正体は「クスサン」というヤママイガ科の蛾だ。成虫は羽を開くと7センチから13センチほどと大人の手のひらほどの大きさになる。日本蛾類学会の岸田泰則会長は「クスサン」の生態について次のように解説する。

「『クスサン』は世界でもかなり大きい部類に入る蛾です。沖縄から北海道までほぼ日本じゅうに生息し、北海道では毎年8月下旬から羽化をはじめます。羽に目玉のような擬態があるのは、天敵の鳥に対する防御だと考えられています。紫外線を好む性質があるので、紫外線を出さないLEDよりも、水銀灯などに多く集まります。夜行性で、夜22時過ぎから本格的に活動を開始します。個体の寿命は1週間から10日ほどですが、その間に1匹あたり数100個の卵を生みます」