これは「蜂起」か「革命」か？ イラン大規模デモがこれまでのデモとは違う [きつねうどん★]
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イランの首都、テヘランでマフサ・アミニがスカーフの着用方法をめぐり逮捕され、急死してから1ヵ月以上が過ぎた。この事件に端を発する抗議活動は止まることを知らず、いまだ拡大を続けている。
仏誌「ル・ポワン」は、イラン社会に詳しい米テネシー大学チャタヌーガ校政治学助教授、サイード・ゴルカーのインタビュー記事を掲載。今回の大規模なデモの背景、そしてイランの今後の展望を聞いた。
──いまイランが抗議デモで揺れています。これは前例のない出来事なのでしょうか。
イランでは1979年のイラン・イスラム共和国樹立後、抗議運動が定期的に起きており、現在のデモもその流れに連なるものです。もともとイラン社会は、ほかの南側諸国と比べると段違いに動きがあり、反抗的精神も旺盛だと言われてきました。ただ、今回の抗議デモは、その規模の大きさやイデオロギーの面でこれまでのものとは異なります。
──これは「民衆の蜂起」と言えばいいのでしょうか。それとも「革命」と呼ぶべきでしょうか。
政治学ではこの2つの用語を、「その運動が体制転換（レジーム・チェンジ）を引き起こせるかどうか」で使い分けています。体制転換を引き起こす力があるならば、それは「革命」と呼ぶべきです。いまのイラン情勢について言えば、今回の抗議デモはこれまでのものより広範囲で起きており、「大規模な民衆の蜂起」と言うのが妥当だと考えています。
これまでの抗議デモとの違い
──この運動はスカーフ着用の強制に反発するだけのものなのですか。
抗議デモが始まったきっかけは、ヒジャブ（ムスリムの女性が髪や身体を覆うスカーフ）のかぶり方が不適切だとして、風紀警察に拘束された後、急死したマフサ・アミニの事件でした。しかし、すぐにその怒りの矛先はヒジャブ着用強制の問題へと向かいました。
ただ、このデモは社会のもっと深い部分に端を発しています。それは抗議デモのスローガンからわかります。デモの参加者の要求は、風紀警察の役割について問うものや、社会に科されている制約を批判するもの、ほかには、経済的な要求をしたり、政治において自分たちの代表がいないことを問題視したりするなど、多岐にわたっています。
目立つのは、抗議デモの参加者全体が似たような不満を抱いていて、それがある種の一体感を作り出しているところです。それから、宗教的なスローガンが一切ないところも、これまでのイランの抗議デモと一線を画しています。
誰もイスラム共和制の仕組みのなかで改革していくべきだとは考えていないのです。「女性、命、自由」という抗議デモのスローガンは、イランの独裁制を批判するものであり、体制転換の要求をしています。これはパラダイムを揺るがすものです。イランのイスラム原理主義が敗北したとも言えます。
──もう少し詳しく教えてください。
デモの参加者は、イスラム共和国が権力を握ってから43年も経ったいま、1979年の革命時に謳われていた自由と社会正義のイスラムのユートピアが実現することはないと考えています。それどころか、イスラム共和制のもとで作り出されたのはディストピアだと。街でデモをする若者のなかには、イランの指導者に対し、「お前たちが作りだした地獄をお前たちに味わわせる」と言う人もいます。 ──この抗議デモの主体はイラン社会のどの階級なのでしょうか。
今回のデモとこれまでの抗議活動との違いは、まさにその点にあると言えます。2009年にアフマディネジャドの大統領再選に抗議して起こった「緑の運動」では、街に出てデモに参加していた人の大半は中流階級でした。あの運動で標榜されていたのは、体制を内側から改革していくことでした。
いっぽう、2017年と2019年の抗議デモは、大都市の周縁に暮らす貧しい層の人々が中心でした。2022年の今回のデモでは、富裕層と中流層、庶民層が混ざり合っています。また、高校での抗議活動がこれほど盛り上がることは、いまだかつてイランではなかったことです。ここ数週間は、高校生たちが主体となっていると言っていいほどでした。
──中学生も怒りを示しています。
イラン社会の全階層で不満が蓄積している証拠です。イランの学校で新学年が始まったのは数週間前のことですが、新学年が始まると同時に生徒たちは抗議活動を始めたわけです。若者たちは、イラン社会の大半の人と同じように、イランに未来がないと感じています。若者の多くはスマートフォンを持っているので情報に通じており、SNSを通してイランのことも、世界のことも知っているのです。
「普通の人」が指導者として頭角を現していく
──イランの最高指導者ハメネイ師は、今回の抗議デモを欧米が画策した暴動だとしか見ていないようです。なぜハメネイ師は現実を直視できないのでしょうか。
権力を私物化する独裁者は浮世離れしてしまいます。ハメネイ師の無数の演説を読むとわかりますが、彼は非常に権威的な性格で、敵に陣地を奪われないために、決して撤退してはならないというタイプです。ハメネイ師は、革命勢力の存在を認めたことがシャー（国王）の最大の間違いであり、それがシャーの治世の終わりの始まりだったと確信している人物です。
だから仮にイランの状況が今後悪化したとしても、そのときハメネイ師がとる路線は、かつてのリビアのカダフィに似たものになるはずです。すなわち、批判勢力への譲歩はすべて拒否し、それを自分の政権が転覆するまで続けるのです。
──ハメネイ師は今後も国軍の支持をあてにできるのですか。
国軍が現体制は盤石だと考えているかぎり、ハネメイ師は国軍の支持をあてにできます。長期的に見れば、国軍は自分たちに未来がないことをわかっています。ハメネイ師は1989年に最高指導者になってから、あらゆる手段を使って革命防衛隊（イデオロギー色の強いイランの軍事組織）の私物化を進め、国軍はこの革命防衛隊にとって代わられています。
体制に批判的な人は軍事組織から追放され、イスラム革命のイデオロギーに染まった人たちが将軍に任命されています。とはいえ、イランの治安部隊に属する人の大半は日和見主義であり、自分の利益を優先する人です。イスラム共和国が崩れそうだと見れば、革命防衛隊や警察の中位層から鞍替えをする人が出てくるはずです。 ──とはいえ現時点では、そんな動きは出ていませんね。
現体制が脅威にさらされているとは考えていないからです。しかし、どんな革命も少なくとも1年ほどの時間が必要です。1979年の革命の際も、前日まで抗議活動を弾圧していた国軍が突然、2月11日に中立を宣言したのです。今回はマフサ・アミニの死の4週間後に抗議活動の規模が拡大しました。この運動がこのまま続けば、治安部隊も疲労がたまり、組織の下部のほうから、部隊を離れる人が出てくるかもしれません。
──イランは中東各地で民兵組織を動かす強大な国と目されていますが、そんな国が内側から脆弱化しているというのは矛盾しているように思えます。
言ってみれば、イラン・イスラム共和国はボディビルダーなのです。筋肉質の見事な肉体を誇示していますが、筋肉増強剤を一週間抜いてしまえば、その屈強な肉体は消えてしまいます。
他国に恐れられてはいますが、国内で揺るぎない支持があるわけではありません。体制を維持できているのは、石油収入を使って大きな軍事組織を維持しているからです。約100万人が革命防衛隊、民兵組織「バシジ」、警察に属しています。
イスラム共和国は軍事テクノロジーに巨額の投資をしているので、ドローンとミサイルの産業は立派です。しかし、都市・社会・文化・環境のインフラには何も投資をしてきていません。だからデモが起きるたびに、体制が内側から脆弱になっているように見えるのです。
──イランの抗議デモには、はっきりとした指導者がいません。これが抗議デモの勢いを失わせているところはありませんか。
たしかに1979年の革命のとき、ホメイニ師というカリスマ指導者がいたのは事実ですが、いまの抗議デモに指導者がいないと言うのは適切ではありません。今回の民衆の蜂起がきっかけで、普通の人が指導者として頭角を現していくことになるはずです。イランの若者が誇りを持ってスカーフを脱ぎ捨て、自動車の上に登って民衆の喝采を受けている動画を見ればわかることです。
https://courrier.jp/news/archives/304509/ イランは半世紀風呂に入らなかった彼にナニをしたんだ！ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
