キンタマの裏に走る一本線の秘密
金玉、睾丸(こうがん)、陰嚢(いんのう)、精巣、ふぐり。

男子の本懐たるキンタマについて、あらゆる切り口から考察した奇書『世界金玉考』(左右社)がいよいよ刊行される。医学、生物学、歴史学、文学、言語学、芸術、食文化など視点は多岐にわたり、240ページのすべてがキンタマの話題で埋め尽くされている。

著者は「週刊文春」「Number」「CREA」など雑誌畑を歩んできた文藝春秋の元副社長。さすが編集者だけあって、文献を渉猟して読みこむだけでなく、キンタマにゆかりのある現場を歩き回るフィールドワークも怠らない。

ウンコについてトコトン考察した前著『うんちの行方』に続き、2冊目の奇書が、発売前から話題を呼んでいる。2022年11月30日に出版される『世界金玉考』から、抱腹絶倒の選り抜きエッセンスをご紹介しよう。

〈ほとんどの男たちはキンタマの裏に走っている縫い合わせたような一本の線のことをうすうす知っているのではないだろうか。もっとも、その場所は自分ではとても観察しにくいところだし、しかも「縫い合わせるような手術をした記憶もない」から、まさかそれが「縫い合わされたもの」だとは誰も思いもしないだろう。〉(『世界金玉考』33ページ)

なるほど己のキンタマを確かめてみれば、たしかに「縫い合わせたような一本の線」が存在する。この線は産婦人科医が外科手術した痕跡ではなく、子宮の中で暮らしている間に自動的に生成されるというから驚く。受精後から6週間までの胎児の生殖器は女性器の形をしており、男児に限ってそこから性器の形が変化していくというのだ。

〈初期の胎児の生殖器にはミュラー管とウォルフ管という二つの管が並行している。ミュラー管は後に卵管、子宮、膣という女性生殖器を形成するもととなる組織である。

だが、SRY【※Sex-determining region Y=Y染色体性決定領域遺伝子】から「男」になれという命令が一たび下されると、精巣が発育し、そこからミュラー管抑制因子と男性ホルモン(テストステロン)が分泌され、ミュラー管の細胞群は徐々に小さくなりやがて消失してしまう。しかし、ミュラー管が消失しだけでは男性は出来上がらない。男への作り変えが必要になってくる。

まず、膣が開口する必要がなくなったので、割れ目を閉じ合わせる作業が始まる。肛門に近い方から細胞と細胞がつなぎ合わさり、縫い合わせが始められる。この痕跡が、冒頭に書いた「縫い合わせたような筋」なのである〉(『世界金玉考』36ページ)


股間を必死で守るサッカー選手
折りしも現在、カタールでサッカーのFIFAワールドカップが開催中だ。日本代表は残念ながらコスタリカに敗れたが、サッカー選手にとっては、ゴールにシュートを決めるよりも、キンタマの防御のほうが死活的に重要になる。

〈サッカーのフリーキックの際、壁となって防御に当たる選手たちは手で必死になって股間をカバーしている。サッカーボールが猛スピードでキンタマに当たったら、玉砕間違いなしだからだろう。サッカーは走り回るので、頑丈な股プロテクターをつけることもできない。実に命がけのスポーツである。〉(『世界金玉考』42ページ)

現在は高校野球の全選手にファウルカップ着用が義務づけられるようになったが、かつてはプロ野球選手でさえ股間を防御しないままプレーしていた。キンタマにボールが直撃し、スタジアムにひっくり返って悶絶する「プロ野球珍プレー・好プレー大賞」の映像が思い浮かぶ。