全国の大学などで「お嬢様部」なるサークル活動が広がっている。ツイッターなどのSNSに「~ですわ」といったお嬢様言葉で投稿したり、仲間で「お茶会」を開いたりと、活動はごっこ遊びにも映るが、有識者は「お嬢様の余裕ある振る舞いができれば、多少のことも寛容に受け入れられ、争いなども起きにくいと考えているのではないか」と指摘する。(内田郁恵)

大学祭に「お嬢様のお屋敷」登場

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「大阪大学お嬢様部」が大学祭で企画したフォトスポット(大阪府豊中市で)=前田尚紀撮影

 「ごきげんよう」。今月初旬、大阪大豊中キャンパスで開かれた大学祭で、レースや花などで飾られたフォトスポット「お嬢様のお屋敷」が登場した。「大阪大学お嬢様部」の企画で、お嬢様や執事、メイドの身なりをした部員が来場者をもてなしていた。

 部は新型コロナ対策の緊急事態宣言下の2020年4月に誕生した。学校名以外、素性や素顔は明かさないのが暗黙のルール。代表・くるさん(3年)がツイッターで目を引こうと、お嬢様をイメージさせる言葉遣いで投稿したのが始まりだ。「入学後も登校できず、せめてSNSで面白いことをしたかった」と言い、仲間でコロナ禍の日常をつぶやいていた。

 活動は対面授業の再開までと考えていたが、入部希望が相次いだ。現在の部員は43人。「お嬢様を目指す高貴な心があれば、誰もがお嬢様」とし、性別は問わない。最近では対面の定例会を開き、ファッションやヘアメイクでお嬢様などになりきるという。くるさんは「普段の自分とは違う、もう一人の人格を楽しんでいる」と話す。

お嬢様言葉「ネタ」から「ツール」へ

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 コロナ禍で各地の大学などでお嬢様部が広がった。「元祖」は京都大お嬢様部だった。なぜお嬢様なのか。代表の学生は「情報やモノがあふれる現代は、心の余裕を失いがち。お嬢様っぽく振る舞えば、世界が少しすてきに見えるのではと考えた」と明かす。

 当初は「ネタ」だったお嬢様言葉は、「コロナ禍で退屈しておりますの」「こんなにフラストレーションがたまる(オンライン)授業もありませんわ」などと本音を和らげて吐き出すツールとなったとみられる。

第2次ブーム起こしたごみ拾い
 コロナの感染状況が落ち着いて対面授業が再開され、SNS上の活動が中心だった多くのお嬢様部が活動を停止したが、今年6月、開設が相次ぐ第2次ブームが起きた。きっかけとなったのが、佐賀大お嬢様部だ。

 6月初旬の深夜、キャンパス周辺で暴走族たちが集まって大騒ぎする迷惑行為があった。翌朝には無数のごみが散乱していた。「私たちの庭が荒らされて黙っていられませんわ!」と、部員が率先してごみ拾いをしてツイッターに投稿。部長(2年)は「一言、物申したかった。それをお嬢様が言えば、面白がってもらえると思った」と振り返る。

 メディアに取り上げられ、SNSで話題になると、2年前を上回る勢いで各地にお嬢様部が生まれた。現在、ツイッター上に「お嬢様部」のアカウントがある大学数は約180に上り、学校を超えて交流するところも増えている。

 博報堂若者研究所研究員の滝崎絵里香さんは「SNSで自分の思いがすぐに可視化される中で、感情を制御したいと考える若者が増えている。そこに柔らかな印象を残すお嬢様言葉がはまったのでは。リアルな人間関係に疲れることも多い現状を、前向きに生きるための一つの手段なのかもしれない」と話す。

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