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斬新な黒い看板の吉野家

街を歩いていて「おやっ?」と思われた方も多いだろう。

牛丼チェーン「吉野家」で、ブラックな看板の店舗が増えているのだ。吉野家といえば、これまでオレンジの看板のイメージが強かった。しかし同社によると、2024年までに「黒い吉野家」を500店舗まで増やす予定だという。背景には、競争の激しい牛丼業界ののっぴきならない事情がある――。

吉野家役員の発言が大問題となったのは、今年4月に開かれた有名私大主催の社会人向け講座「若者を牛丼好きにする戦略」でのこと。常務の職(当時)にあった男性が、こう発言したのだ。

〈地方から出てきた右も左もわからない生娘が、初めて利用してそのままシャブ漬けになるような企画。男に高いメシを奢ってもらえるようになれば、絶対に食べない〉

参加者がSNSで役員の発言を公開すると、たちまち大炎上する。吉野家は〈極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません〉と謝罪。ネット上には「もう吉野家は利用しない」「吉野家を見限った」と、不買運動にもつながりかねないコメントが溢れた。

ドリンクバーやアイスも

8月期には、主要牛丼チェーン3社(「すき家」「松屋」)で吉野家だけが売り上げと客数が前年同月比でマイナスに。苦境の原因は「不適切発言」だけではない。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が解説する。

「吉野家の店舗の多くは、繁華街の駅近くにあります。牛丼中心のメニューで、主なターゲットは独身サラリーマン。しかし新型コロナ禍によりサラリーマンがあまり繁華街へ出なくなり、吉野家は劣勢に立たされていたんです」

起死回生のプロジェクトとして、同社が急ピッチで増やそうとしているのが「黒い吉野屋」だ。都心だけでなく郊外にも展開する。どんなコンセプトなのだろう。松崎氏が続ける。

「既存の吉野屋はカウンター席が中心で、店員はご飯の上に肉を乗せるだけで手間をかけずに牛丼を提供できました。客はさっと食べてすぐに店を出る。しかし『黒い吉野家』は違います。厨房と客席が離れていてテーブル席が多い。カフェのような雰囲気でゆったりできます。

メニューも豊富です。半熟玉子黒カレーや鰻重、ドリングバーやバニラアイスまであります。驚かされるのが、揚げ物メニューが豊富なこと。揚げ物は、フライヤーを使い作るのに時間と手間がかかります。値段も昨年まで300円台だった牛丼(並)に比べ、550円前後と少々高め。『安い、早い』という吉野屋のイメージを覆す商品なんです」

狙いはどこにあるのだろうか。

「女性や若者、ファミリー層をターゲットにしています。これまでの単身サラリーマン向けでは、展望が開けない。ファミリー層や女性の中には、たまの外出では食事ぐらいプチ贅沢をしようと考えている人が多い。原材料や人件費の高騰もあり、吉野家は少し高めの価格でもメニューが豊富で質の良い料理を提供し、客層の幅を広げようという狙いでしょう」(松崎氏)

オレンジからブラックへ。不祥事でダメージを受けた吉野家が、大きく生まれ変わろうとしている。

https://friday.kodansha.co.jp/article/282651