少なくとも20万人、最大で27万人──ロシア軍がウクライナ侵攻開始から11カ月間で出した戦死者、負傷者、行方不明者の数について、専門家はこう見積もっている。

これほどの犠牲を伴っては、新たな攻勢をかけることはおろか、現行の作戦を維持する能力すら損なわれかねない。

米紙ニューヨーク・タイムズは先週、米政府高官の推計として、ロシア側の死傷者数を「20万人に迫っている」と報じた。しかし、独立系調査組織「紛争情報チーム(CIT)のアナリストは、ロシア軍の人的損失を最大27万人と推計している。

CITはメディア報道、特にロシア側の死亡記事に関するBBCの独自分析を精査し、2022年2月以降にロシア兵3万3000人が家族によって埋葬されたと結論づけた。

次に、戦闘中に行方不明となったロシア兵の人数を、ウクライナ側が昨年春に入手したロシア第1戦車軍の報告書に記された作戦行動中行方不明者(MIA)の割合から推計した。キーウ周辺での3カ月間に及ぶ激戦の後に第1戦車軍が記録した死者は61人、行方不明者は44人。同じ比率をロシアの全戦闘に適用できるとすれば、MIAは数万人に上り、CITはそのほとんどが戦死したとみている。

ウクライナ侵攻全体では、合わせて6万5000人のロシア兵が死亡したか行方不明になったとCITは推測する。歴史的に見て、現代の軍隊は戦死者1人につき3、4人の負傷者を出していることから、死傷者の合計は27万人となる。

言い換えれば、11カ月前にウクライナに進軍したロシア兵は、統計上では一人残らず戦死したか病院に収容された可能性があるということだ。

当然、ロシアは損失を補填するため数十万人を新たに動員し、民間軍事会社ワグネル・グループがロシアの刑務所から囚人を徴募するのを許可した。

だが、無限に人員を動員できるわけではない。また、堅固な部隊育成体制がなければ、損失に動揺した指揮官が作戦ペース維持に必死になり、新兵の訓練時間や装備に割くリソースがますます減るので、さらに大きな損失につながる。
ワグネルは、バフムートでの戦いで訓練も装備も十分な大隊の大部分がウクライナ軍に壊滅させられた後、やや変則的な新しい部隊構造を採用した。訓練を受けていない元囚人4万人を統制の緩い軽装備の大隊に編成し、経験豊富な少数の中核部隊の指揮下に置くというものだ。

これらの大隊は、戦場での優位性を確保する作戦行動(資金も時間もかけた訓練と、前線兵士の規律の高さ、指揮官の創造性が求められる)はせず、直接ウクライナ軍の陣地に突撃する傾向がある。いわゆる「人海戦術」だ。時間や資源に余裕のない軍隊がとる、手っ取り早くて安上がりな一時しのぎの戦法である。

ウクライナ軍は前線の大半で塹壕(ざんごう)を掘り、大砲の支援を受けているため、この戦法は自殺行為でもある。ロシアのニュースサイト「メドゥーザ」によると、ワグネルは9カ月間にわたり失敗続きのバフムート攻略戦で戦力の80%を失ったという。