2/9(木) 7:35 倉原優  呼吸器内科医
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20230209-00336268

現在、新型コロナワクチンは、最多で5回接種まですすめられています。私も、5回接種済です。なぜ、これまで短期間でたくさんワクチンを接種してきたのに、今後は年1回で済むという結論になるのでしょうか?

新型コロナワクチンの効果は2つ
国内では現在、ファイザー社、モデルナ社、武田社(ノババックス)のワクチンと、ファイザー社とモデルナ社のオミクロン株対応2価ワクチンが接種されています。

個々のワクチンの差については割愛しますが、新型コロナワクチンに期待されてきた効果は主に2つあります。

「発症予防効果」
1つ目は「発症予防効果」です。メッセンジャーRNAワクチンが薬事承認される前に、海外で発症予防効果を確認するための臨床試験が行われ、95%という発症予防効果が確認されたことは大きく報道され、記憶に残っている人も多いでしょう。

現在のオミクロン株に対して、従来株ワクチンの追加接種やオミクロン株対応2価ワクチンの接種による発症予防効果は、約70%とされています。

この70%というのは、「ワクチンを接種した人の70%が感染しない」という意味ではありません。感染症の発症率によりますが、たとえば10%だった発症率を3%に低減できるという意味です(図1)。当然、感染者数が多いほど、このインパクトは大きくなります。

図1. 発症予防効果70%の意味(筆者作成)(イラストはイラストACより使用)
現在のワクチンの問題点は、ワクチンから逃避する術に長けた変異ウイルスのせいで、発症予防効果の持続期間がだんだん短くなっているという点です。

実際に、3回目ワクチン接種後5〜6か月も経過すると、オミクロン株に対してかなり発症予防効果が落ちてしまいます。

そのため、ワクチンが登場した初期のような長期の感染予防効果は期待できなくなっています。これがネガティブに受け取られ、ワクチン接種が思うようにすすまない現状もあり、2つ目の効果をしっかりと啓発することが重要です。

「重症化予防効果」
その2つ目の効果は、「重症化予防効果」です。特に高齢者や基礎疾患がある人では、3回以上接種している場合、入院を要する新型コロナはかなり少なくなります。

参考になるデータとして、イスラエルの65歳以上の約62万人における、オミクロン株対応2価ワクチンを接種した人と接種していない人の入院率を比較した研究があります(1)。過去3か月以内にワクチン接種歴や感染歴のない、オミクオン株対応2価ワクチン接種対象者が、組み入れられています。

これによると、オミクロン株対応2価ワクチンの接種群で、入院リスクが未接種群より81%減少することが示されました(図2)。オミクロン株になってからというもの、イスラエルでもワクチン接種の効果が低いという風潮が広まっており、伸びない接種率に悩まされているそうです。

図2. オミクロン株対応2価ワクチンの入院予防効果(参考資料1より引用)
日本でも、アドバイザリボードの資料において、ワクチン接種回数が3回・4回・5回と増えるにつれて入院予防効果が大きくなることが示されています(2)。

全体を見ると確かに重症化している人の数自体は多くありません。ただ、医療機関に入院する人の多くがワクチン未接種あるいは追加接種していないという状況であることから、日本の救急医療や入院医療を守るためには、ワクチン施策は避けて通れません。

さて、この「重症化予防効果」というのは、「免疫の記憶」によるものだということが示されています。

「免疫の記憶」
この機能は、リンパ球という白血球が担っています。例えば過去に感染したことがあるウイルスが入ってくると、これを記憶したリンパ球が作用して、早期に感染症の火消しに動いてくれるわけです。