【漫画】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う…精神障害者の説得を続ける男・押川剛が危惧する対応困難な患者さんほど見捨てられる現実。「この国では、資格を持つとルールで行動が縛られてしまう」

3/1(水) 18:01    集英社オンライン
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日本で初めて説得による精神障害者の移送サービスを行う「トキワ精神保健事務所」を始めた押川剛氏。これまでも多くのメディアや著書で精神科医療現場の実態を伝えてきたが、2017年より連載が始まった漫画『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社/原作・押川剛、漫画・鈴木マサカズ)が注目を集め、問題作となっている。そんな衝撃のノンフィクションコミック誕生の背景を聞く。(全3回の1回目)

【漫画】飼い猫を殺して全裸でバットを振る男の末路…
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社会の陰に見捨てられた存在に寄り添う
――「トキワ精神保健事務所」は、どのような業務を行う会社なのでしょうか。

「病識のない精神障害者を説得して医療につなげる」という説明が一番わかりやすいかと思います。具体的には、家族からの相談を受けて対象者を視察調査し、精神科病院の確保、保健所などの行政機関や場合によっては警察とも連携をとりながら医療につなぎます。その後も面会を通じて本人と人間関係を作り、障害者総合支援法による社会のサポートを受けられるように自立支援を行っています。

――主に対応困難な難治性精神疾患の患者さんを扱われているそうですね。

病院や行政も匙を投げ、警察は事件が起きなければ動けないという状況の中で、そういった方々に対応できるのは、おそらく私たちのところぐらいという非常に厳しい現状があります。
極端な例をあげれば、子供を殺した人が精神疾患により不起訴や無罪となり医療観察法による治療を受けることになっても、1年半ほどで社会に出てきます。ところが家族からすると、病状はさほど良くなっておらず未だ命の危険がある。「今後、どうしたらいいか」という家族からの相談もあります。

――なぜそのような事態になっているのでしょうか。

2014年の精神保健福祉法改正で保護者制度が廃止され、法律上は家族の負担が軽減しましたが、実際は保健所や病院に相談にいっても「本人の同意」が前提となり、その説得は家族がするように求められます。結果的に家族が抱え込むしかない状態になっていて、対象者を軟禁・監禁する事件も起きています。これは明治から昭和中期まで行われていた私宅監置、つまり座敷牢となんら変わらないものだと私は思っています。

――移送サービスを行っている民間業者はほかにもあるのでしょうか。

いっぱいありますよ。ただし、うちのように取材も受けて、すべて見せているところは一社もありません。移送会社が家まで来たけど、患者さんから拒否されて「連れて行けない」と帰ってしまったという話もよく聞きます。

でも、私は強引に引っ張っていくことは一切せず、本人の意志で「行きます」と言ってもらえるように説得します。そのためには、視察調査や、近隣住民への連絡、警察や行政との連携など相当な準備が必要となり、医療につなげるまでに1〜2年かかる場合もあります。

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