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大谷翔平級のスピードへの挑戦を呼びかける看板=水戸市白梅1丁目の駅南バッティングセンター

 高校野球の春季大会が各県で佳境を迎えている。今年は、例年以上に野球への関心が高まっている気がする。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本が優勝した影響があるのだろう。WBCといえば、侍ジャパンの主力で大会MVPに選ばれた大谷翔平。大谷級の速球はどれほど速いのか。高校野球担当記者が体感してみた。(津沼楽洋一)

 本格的な野球経験はないが、仕事の特権で観戦歴は豊富だ。高校野球では1998年、平成の怪物・松坂大輔(神奈川・横浜)が活躍した夏の甲子園で、横浜―PL学園(大阪)の延長17回をはじめ、全試合を現地で取材した。松坂の速球を見ているのだから、165キロも「数打ちゃ当たる」と、根拠のない自信で素振りを始めた。

 JR水戸駅近くにある「駅南バッティングセンター」を訪ねた。約45年の歴史があり、多くのプロ選手も訪れている有名なバッティングセンターだ。打席へ向かう通路に入ると「大谷翔平に挑戦」の文字が飛び込んでくる。

 酒井功社長によると、この看板は松坂大輔がプロ野球で155キロをマークしたときに掲げた。その後、挑戦する投手名はマーク・クルーンやダルビッシュ有になり、今は大谷に。大谷が自己最高スピードを更新するのに合わせ、マシンの球速も上げてきた。

 マシンに高速のボールを投げさせると、スプリングが早く傷むなど経営的には負担もあるが、「お客さんに楽しんでいただけたら」と続けているという。

 165キロが出る3番の打席は、順番待ちが出る人気ぶり。中学生のグループが挑戦していたが、空振りの連続だった。「当たらない球にお金を使うのはもったいない」と球速設定を下げていた。

 利用客が途切れたところで、素早くヘルメットをかぶり打席に入った。

 軽めの730グラム、長さ83センチのバットを選択。メダルを入れ、緊張しながら165キロのボタンを押す。「振り遅れないことが大事。ノーステップで、最初からバットを寝かせておいて最短距離で振り抜く……」と構えていたら、「バズッ」と球が後方のマットに突き刺さる重い音が響いた。

 「えっ、今、何か通りました?」。初球はまったく動けなかった。何球か続けて振ってみるが、目が追いつかない。まずはバットに当てようとバントに切り替える。周囲の客は失笑しているが、気にしてはいられない。バットの高さに目線を合わせて、確実に当てにいく。「よし、当たった」と思ったら、球がバットの上を通過した。最初の1ゲーム21球で前に転がったのは1球だった。

■常連客の助言、甲子園出場監督の見解

 ほかの利用者の打撃を見ながら、常連客らに助言を求める。「半分は前に飛ぶ」という水戸市の会社員男性(48)は「球が見えてから振り始めたのでは間に合わない。機械のタイミング(間合い)で振るんですよ」。やり方は分かったが、球を見ずに振るとは、もはや野球とは別物のような気もする……。