5/3(水) 10:03   読売新聞オンライン
https://news.yahoo.co.jp/articles/c431c3613619887b1b771a7eb52e46c09fae684a

安倍晋三・元首相(当時67歳)が昨年7月、奈良市で銃撃されて死亡した事件を巡り、根拠のない言説がネット上でくすぶっている。無職山上徹也被告(42)が殺人罪などで起訴されているが、「真犯人は別にいる」と唱えるもので、現場にいた人を「怪しい」と名指しする動画も拡散する。背景に何があるのか。

【写真特集】安倍元首相銃撃ドキュメント

断片情報から憶測
 <暗殺の首謀者判明>

 ユーチューブで公開され、10万回以上再生されている動画のタイトルだ。

 安倍氏が演説中、大きな発砲音が響き、背後で白煙が上がる映像はネット上に多数残っている。

 この発信者は、こうした映像を編集し、「現場近くの建物の上に別のスナイパーがいた」と繰り返している。

 また、山上被告による発砲について、「音声を調べると空砲だった」という別の人物の投稿も拡散した。

 山上被告はおとりで、真の狙撃犯は外国の諜報(ちょうほう)組織の手下だ。その真実を警察が隠している――と主張するのが特徴で、賛同のコメントが無数に付いている。

 現場で映っていた聴衆や地元議員らを不審者扱いしたり、議員の名を挙げて「諜報組織の協力者で、証拠隠滅をしている」と非難したりする動画もある。この議員は読売新聞の取材に「事実無根で許しがたい」と憤る。

 発端は、事件直後の断片的な情報からSNSなどで広がった臆測だった。

 安倍氏の搬送先の病院では医師が記者会見し、首の銃創の位置に言及している。司法解剖の実施前で、正確な状況が確認されていない段階だったが、「弾の方向と合わないのでは」との疑問もSNSで拡散した。

認知のゆがみ
 それがなぜ、飛躍した見方につながるのか。

 東京女子大の橋元良明教授(情報社会心理学)は、誰もが持つ価値観や固定観念などによる「認知のゆがみ」が関係しているとみる。

 人間は、怒りや悲しみなどの感情を刺激される事象があり、強い関心を持っているにもかかわらず、不明確だと感じる部分があると落ち着かない。その部分を埋め合わせようと極端な解釈をすることがあるという。