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水揚げされたウツボ=伊勢志摩冷凍提供

 温暖化で増殖し、駆除の対象にもなっているウツボやアイゴ。そうしたなじみのない魚を食材にする動きが広がっている。三重県志摩市では、業者が唐揚げなどの加工品をつくり、人気を集めつつある。海の「厄介者」を漁業の振興につなげようという取り組みだ。

 テーマパークの志摩スペイン村(志摩市磯部町)。園内のレストランのメニュー「ほろ酔いセット」(2150円)で、ウツボの唐揚げを小鉢で出している。

 市沿岸でウツボが非常に増えていると聞き、1年前にメニューとして採り入れた。昨年は半年間限定で、ウツボのアヒージョも出した。広報担当者は「想定を上回る人気」と話す。

 暖かい海に生息し、どうもうさで知られるウツボ。志摩市大王町の海士(あま、64)は「昔からおって干物にしとる。最近は本当によう見るようになった」。

 温暖化と黒潮大蛇行による海水温の上昇が影響しているとみられる。特産の伊勢エビを食べるようになり、今や厄介者扱いされている。

 市沿岸では海水温の上昇に伴う食害生物の大発生で海藻が荒らされる「磯焼け」が広がり、アワビや伊勢エビの不漁が深刻化している。市は2021年度からガンガゼなどを海女、海士の協力を得て駆除している。

 ウツボも対象。21年度は1202匹、22年度は733匹を駆除した。ただ大半は捨てているのが現状だ。

 そんななか、加工品の販売を始めているのが卸売業、伊勢志摩冷凍(本社・志摩市阿児町)。漁師から「ウツボが大量に網に入る。何とかならないか」と相談されたのがきっかけだった。扱っていた伊勢エビやカキの水揚げ量が減っていたこともあった。

 「干物での利用では消費量が限られている。おかずとして広く食べてもらい、新たな食文化にしたいと考えた」と社長の石川隆将さん(43)。

 小骨を取り除くのに手間がかかるが、21年に切り身と唐揚げ、ミンチの本格販売にこぎつけた。

 天ぷらやあんかけ、ハンバーガーのパテに使われ、淡泊で歯ごたえの良さが好評に。伊勢志摩の居酒屋、ホテル、さらに関西のスーパーで扱われるようになった。22年の出荷量は2トンから3トンへと増えた。

 さらに昨年、「開発」を始めたのがアイゴとブダイ。南方系の魚で海藻を食べ荒らすとされ、市による駆除の対象になっている。22年度の実績だと、アイゴは142匹、ブダイは1322匹。

 伊勢志摩冷凍によると、アイゴの加工で手を焼くのが、毒のあるひれと臭みのある内臓を取り除くこと。身は、フライや竜田揚げにでき、あっさりとした味を楽しめるという。ハンバーガーのパテにも使われ、この半年間で出荷量は1トンを超えた。未利用魚への消費者の理解が進んでいることも追い風になっているという。ブダイは試作品づくりの真っ最中。

 いずれも地元漁師から仕入れており、伊勢エビなどの漁期以外に取ってもらっているという。石川さんは「自然界で今、大量に増えているものを新たな食材として利用することで、苦境にある漁師の生活の助けにもなるという取り組み。他の業者も加わり、広がってほしい」と話している。(臼井昭仁)

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