UH-60ヘリコプターの後継

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テキストロンV-280バロー(画像:ベル)

 2022年の年末、米陸軍のUH-60汎用(はんよう)ヘリコプター後継機として、ティルト・ローター機であるベル・テキストロンV-280バロー(Valor)が選定された。

 V-280は将来型長距離強襲機プログラム「FLRAA(Future Long-Range Assault Aircraft、将来型長距離強襲機)」と名付けられた陸軍の要求に応じて開発され、ライバルであるシコルスキー・ボーイングSB-1デファイアントとの競争になっていた。

 SB-1は二重反転ローターと推進プロペラを持つ複合ヘリコプターだったが、結果はV-22オスプレイで実績のあるティルト・ローター形式のV-280に軍配が上がった形である。

 SB-1の開発チームは選定結果に納得せず、会計検査院に異議を申し立てていたが、この申し立ては4月までに却下され、ベルV-280の開発続行が改めて宣言された。この選定を勝ち取れば、将来的に700億ドルもの取引が見込まれるとされているから、契約を失注したシコルスキー・ボーイングの無念は想像に余りある。

 V-280への置き換えが計画されるUH-60ヘリコプターは、1979年に米陸軍での運用が開始され、その後は特殊作戦型や洋上哨戒型など多くの派生型にも発展した。世界各国向けの生産機数は2000機を越えているとされ、日本でも陸海空の3自衛隊すべてがUH-60シリーズの機体を装備している。

 4月に宮古島で墜落した陸上自衛隊のヘリコプターも、国内でライセンス生産されたUH-60JAであった。

ティルト・ローターの本領

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シコルスキー・ボーイングSB-1デファイアント(画像:ダナ・クラーク)

 プログラム名称のAssault Aircraft(強襲航空機)が示すとおり、V-280は単なる人員輸送を担う汎用ヘリコプターではなく、陸軍特殊作戦コマンドおよび海兵隊において、強度の脅威が存在する地域へ兵員を送り込む任務を担う。

 そのため、約10人の兵員輸送を可能とするほか、約4500kgのりゅう弾砲をつるして輸送するなど、UH-60同等以上の輸送能力が要求されているのは当然である。

 しかしV-280がUH-60より優れているのは、積載能力よりも飛行性能であり、それこそがティルト・ローター機の本領である。UH-60の最大速度が300km/h以下にとどまるのに対し、V-280の最大速度は520km/hに達し、ヘリコプターがまねのできない足の速さを持っている。また、UH-60の戦闘行動半径は590kmとされているのに対し、V-280は930~1500kmにも達すると伝えられている。本機はあくまで長距離強襲機であり、この航続力と速度による突破力こそ求められた資質であった。

 米軍にとって、中国との緊張が高まっている現在、洋上を長距離進出して戦力を投入する能力は重要である。航続力を補うには空中給油という手段もあるが、給油機とのランデブーは行動の秘匿を困難にする。できる限り長距離を高速で進出できることは、特殊作戦部隊を投入する上で重要な性能である。

 競合機であった複合ヘリコプターSB-1と比較しても、飛行性能におけるティルト・ローター機の優位は大きい。前進飛行時の揚力もローターに頼るSB-1では、主翼の揚力を使った効率的な飛行はできず、ローターの限界による速度の制約も逃れられない。