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要塞はどうした? 「自由ロシア軍」がドローンで撮影したベルゴロド攻撃の様子(6月5日) Freedom Of Russia Legion/REUTERS

<反プーチン主義のロシア人武装勢力は、まんまとロシア領内への越境攻撃を成功させた。そしてロシアが喧伝する「要塞化」がこけおどしに過ぎないことを実証した>

ウクライナ軍の反転攻勢に備えて、ロシアは強固な要塞化でウクライナ東部と南部の占領地域を死守する構えだが、ロシアの独立系メディアの分析によれば、ロシアの防衛線が頼りにならないことは既に実証されているという。

それを示したのは、ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州で5月末に起きたロシアの反体制派武装集団による越境攻撃だ。

ベルゴロド州は、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻開始以来、たびたび砲撃やドローン(無人機)攻撃にさらされてきた。

今年5月22日には、ウクライナのスーミ地域からロシアの反体制武装集団が国境を越えてベルゴロド州に侵攻。国境地帯の防衛網の脆弱さとロシア領内に戦火が広がるリスクをあぶり出した。

大金を投じたのに
この侵攻で戦車の進軍を防ぐために設置された、塹壕と「竜の歯」から成る防衛線は役に立たなかったと、ロシアのメディア「7x7」とベルゴロドのメディア「ペペル」が報じた。竜の歯とは、先の尖った巨大な歯のような四角錐のコンクリート・ブロックのことだ。

ベルゴロド州は100億ルーブル(約1億2428万5400ドル)を投じてこの防衛線を築いた。

同州のバチェスラフ・グラドコフ知事は今年3月、昨年4月から始まった建設作業がようやく終了し、この地域の防衛は万全になったと宣言した。

だが戦況を伝えるソーシャルメディアは、要塞の完成後も越境攻撃が続く状況を伝えている。

メッセージアプリ・テレグラムのチャンネル「スパイ・ドシエ」(ロシアの情報機関とつながりがある人物が運営)は、反プーチン派のロシア人戦闘員が結成した2つの組織「ロシア義勇軍」と「自由ロシア軍団」は防衛線を単に迂回して、高速道路に沿いに侵入した。その間、ロシア軍との交戦は皆無だった」と指摘した。

テレグラムのチャンネル「カントリー・ポリティクス」は、越境攻撃は防衛線よりも西側で起きたと伝えた。

ウクライナ内務省の顧問、アントン・ゲラシュチェンコもベルゴルド州知事の「防衛は万全」発言をあざ笑うかのように、ロシアの武装集団はやすやすと同州に侵入できたとテレグラムの自身のアカウントに投稿した。

「塹壕は浅い溝にすぎず、パルチザンはコンクリートの竜の歯を迂回するだけですんだ」

本誌はこの件についてベルゴロド州知事のオフィスとロシア国防省にコメントを求めている。

ベルゴロド州に設置された防衛線と同様のバリケードは、ウクライナ東部と南部のロシア軍の占領地域にも設置されている。これに関して、オープンソースのデータを使ってロシアの軍事活動を監視する分析グループ「コンフリクト・インタリジェンスチーム」の創設者で軍事専門家のルスラン・レビエフは7x7の取材に対して、地上部隊の進軍を妨げることを狙った防衛線はドローン攻撃や砲撃には無力だ、と述べている。

ウクライナ東部と南部の戦闘は「主に砲撃戦であり」、ウクライナ軍は「まず砲撃でロシア軍が設置した防衛用障害物を一掃して」、前線を突破するだろうという。