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ウラジオストク港と、同市のシンボルでもある金角湾大橋(写真・ 2019 Bloomberg Finance LP)

中国は2023年6月1日から、ロシア極東の最大都市ウラジオストクの港の使用権を165年ぶりに回復した。さらに西部国境では、中国とキルギス、ウズベクの横断鉄道計画にゴーサインを出し、ロシアの権益を次々と侵食している。

ウクライナ侵攻で衰退が加速するロシアの弱みを突いて「兄弟関係」を逆転しただけではない。ウクライナ危機の最大の受益者は中国かもしれない。

中国「祖国の懐に」と興奮
「ロシアによって165年間使用された後、港はついに祖国の懐に戻った」

中国東北部の吉林省と黒竜江省が、省産品を浙江省など沿海地域に出荷する際、ウラジオストク港を使用する特例措置が6月1日から認められたニュースを伝える報道だ。

かつて中国領だったウラジオストクが、帝政ロシアとの不平等条約によって奪われた「屈辱の歴史」をそそいだかのような興奮ぶりだ。ロシアはもちろん太平洋艦隊の基地がある極東最大の軍事拠点の同港を中国に「返還」するわけではない。順序を追って説明しよう。

中国税関総署は2023年5月4日、中国東北部の老朽化した工業基地を活性化するため、同年6月1日から国内貿易品を国境越えの通過港としてウラジオストク港を使用できるようになると公告した。

ロシア政府がこれを認めたのは、習近平が2023年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で3期目の国家主席入りを果たした後、3月20~22日に初の外遊先としてロシア訪問した時だ。プーチン大統領との10時間以上におよぶ首脳会談での、最大のテーマはウクライナ問題だった。

首脳会談後に2人は、「2030年までの経済協力の大枠に関する共同声明」に署名した。この中で、「両国の鉄道、道路、河川、海運など輸送迅速化を含む物流面での協力」をうたい、ウラジオストク港使用でプーチンの「ダー(イエス)」を勝ち取ったのだった。

沿海州は清朝時代には「外満州」(Outer Manchuria)と呼ばれる中国領だった。しかしアヘン戦争で清朝が弱体化、帝政ロシアは1858年のアイグン(璦琿)条約と、1860年の北京条約でアムール川左岸を獲得、ウスリー川以東の外満洲を両国の共同管理地として「割譲」した。

その面積は約500万平方キロメートルと、現在の中国領土960万平方キロメートルの半分強に相当、中国にとって屈辱的割譲だった。

ウラジオストク港使用権の付与に合意した背景は何か。まず経済面。中国が吉林省や黒竜江省から貨物を輸送する場合、今は大連港まで運んで、江蘇省、浙江省向けの貨物船に積み替えている。大連までの距離は短くても300キロメートル、長ければ600キロメートルである。

ウラジオストク港開放によって最短100キロメートル、最長でも300キロメートルと輸送距離は半減され、コストパフォーマンスもいい。吉林、黒竜江省から中国南部への輸送は「国内貿易」扱いだから関税の問題も発生しない。

一方、ロシアのメリットは何か。これまでロシアはウラジオストク港を、原油、天然ガス、海産物、木材などを日本、韓国、アメリカ、台湾に輸出する窓口にしてきた。しかしウクライナ侵攻に伴う経済制裁で、西側諸国への輸出量は激減。ウラジオストク港には「閑古鳥が鳴く」状況だ。

つづき
https://toyokeizai.net/articles/-/680533