行方不明者の捜索に貢献した警察犬が、飼い主らとともに表彰され、ご褒美をもらう姿が度々報道される。思わず頬がゆるむそんなニュースの裏側で、警察犬をめぐる厳しい状況があるという。公益社団法人日本警察犬協会の木村佳晴事務局長に、警察犬の実情を聞いた。

人の汗をかぎ分ける
 警察庁の発表によると、去年1年間に全国の警察に届け出のあった認知症の行方不明者はおよそ1万8700人に上る。統計を取り始めた2012年以降最多で、この10年間でほぼ倍増しているという。

 そんな行方不明者の捜索に大きく貢献しているのが警察犬だ。

「警察犬には、犯人に噛みついて逃走を阻止したりする逮捕活動の仕事もありますが、行方不明者などを探す足跡追及、発見がメインの仕事です。犬の嗅覚力は人間の3000倍から一億倍と言われています。特に人の汗に含まれる成分をかぎ分ける力が非常に強いため、人の捜索が得意なのです。近年、行方不明者の数はますます増えており、高齢者だけでなく、子どもや若年性認知症の方の行方不明者も多い。そのため、素早い捜索ができる警察犬の需要は増えています」(日本警察犬協会の木村佳晴事務局長、以下同)

表彰式ではジャーキーが定番
 兵庫県丹波篠山市では、篠山署の警察犬でシェパードの「ヴィクトール号」が行方不明の70代男性を発見し、表彰状とビーフジャーキーが贈られたという。男性の寝具類の臭いを手掛かりに、わずか22分で河川沿いに横たわる男性を発見。草木が生い茂り、人からは見つけにくい場所だったが、嗅覚を頼りに探し当てた。

 秋田県美郷町では、同じくシェパードで、嘱託警察犬の「ドロシー号」がまくらの臭いをもとに70代の行方不明者を捜索。約30分後に自宅から約700メートル離れた場所で、乗っていたバスから降りて来た本人を発見した。

 警察犬として活躍するのは、シェパードなどの大型犬だけではない。茨城県水戸市では、トイプードルのアンズちゃんが行方不明になった高齢女性を発見し、感謝状と鶏のジャーキーを贈呈された。アンズちゃんが感謝状を贈られたのは3度目だという。

「警察犬の表彰式は、各都道府県警察や所轄警察署などがそれぞれの基準で行っており、ご褒美に何をあげるかもそれぞれの警察署が決めています。行方不明者の捜索に関しては、生存した方を発見した場合に表彰されることが多いようです。表彰式自体は昔からありますが、警察の広報活動という一面もあるため、最近はマスコミを呼んで大々的に行うことも増えているように感じます」

雨が降っても大丈夫だが…
 警察犬による行方不明者の捜索は、どのように行われるのか。

「行方不明者が出たら、まずは人(警察官)が捜索を行います。それでも発見に至らなかった時に、警察犬に出動依頼があります。そのため、警察犬が捜索を開始するまでにはタイムラグがあり、6時間後に出動依頼が来たら早い方です。その間に雨が降るなどすれば、足跡臭気といって、地面についた臭いが流れてしまっていることがあります」

 臭いが残りにくいアスファルトの道路も警察犬が苦手とするもののひとつという。しかし、そんな状況でも力を発揮するのが、警察犬のすごいところだ。

「警察犬は、たとえ足跡の臭いが途切れてしまっても、空気中に残る浮遊臭気を頼りに捜索することが出来ます。臭いを識別する機械の研究も進められていますが、実用化には至っていません。警察犬の担う役割は大きいのです」