IMF危機以降の行き過ぎた新自由主義により、すべての世代が無限競争に駆り立てられている「超格差社会」韓国。

政権が政策を誤れば、これは世界中のどこの国でも起こりうる。 新自由主義に向かってひた走る、日本の近未来の姿かもしれない——。

『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』は、韓国について知るための必読書である。

本記事では、韓国の企業で働く中年男性の苦悩について、くわしくみていく。

※本記事は金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』から抜粋・編集したものです。

犬になった中年男
中小企業で次長を務めるファン・ソンミンさん(47歳)は、自分を典型的な中年とは思っていなかった。しかし、ある日、女性社員たちが、こっそり自分のことを「ゲジョシ」と呼んでいるのを聞いて愕然としてしまった。

「ゲジョシ」とは、犬(ゲ)とおじさん(アジョシ)の合成語で、「品の悪い中年男性」に対して、若い世代が軽蔑を込めて使う流行語だ。

ファンさんは、自分がなぜ「ゲジョシ」と呼ばれるのか理解できなかった。失礼だという思いが頭の中を過(よぎ)ったが、だからといって彼女たちを呼んで問いただすわけにもいかない。ファンさんはすぐにインターネットで検索し、〈ゲジョシ・チェックリスト〉というのを見つけ出した。



「ゲジョシ」とは、40~50代の、権威的で自身の利益のためには他人の迷惑を顧みない男性のことを指す。女性や社会的弱者には強いが、立場が上の人には弱いのが特徴。次の項目のうち、1つでも該当すれば、あなたもゲジョシだ!

1:コーヒー(お茶)は、女性が淹れてくれたほうがうまいと思う。
2:女性あるいは店の従業員が自分より若そうだと、すぐにため口を使う。
3:自分が間違っていても、後輩の前ではひとまず自説を言い張る。
4:地下鉄で周りの人たちを気にせず、足を広げて座る。
5:相手をよく知るために、私生活を詳しく聞き出す。
6:飲み会も業務の延長!一人残らず出席すべきだ。
7:部下に、業務以外の個人的な仕事をさせたことがある。
8:自分の価値観を人に押し付ける。
9:酔っぱらって、公共の場所で大声で騒いだことがある。
10:その気になれば、自分より10歳以上若い女性とも付き合うことができると思う。



「確かにゲジョシだ」ファンさんは呆然とした。

ファンさんは、月に2~3回、仕事が終わった後、部下を連れて飲み会を開いていた。すべて自腹である。一人暮らしの部下たちに栄養補給させるとともに、仕事のストレスを解消してやりたいと思ったからだ。飲み会ではいつも部下の私生活を話題にした。「君はどうしてまだ結婚しないんだ」「好きなタイプは?」「男っていうのはね……」「私が若いときは……」

可愛い部下たちの相談に乗っているつもりだったが、ファンさんのこうした行動は全部、部下には「ゲジョシ」と見なされていたのだ。

中年男性に対する青年世代の反撃
韓国で「犬」という言葉は、相手を蔑む接頭辞としてよく使われる。ひどく汚れた席のことを「犬場(ゲパン)」といい、人をけなす時は「犬のような○○」「犬以下の○○」と言ったりする。人類最高のペットである犬が、なぜ韓国でこれほど冷遇されるのかという議論はさておき、犬をおじさんと合体させた「ゲジョシ」という造語の誕生は、韓国の中年男性に大きな衝撃を与えた。

韓国では、「ゲジョシ」は、既得権者である中年男性に対する青年世代の反撃の狼煙と言われる。社会的な強者である中年男性への不満を、若者たちは自分が強者になれる「インターネット」空間で、造語の形で吐き出したのだ。そして、これがオフラインにまで進出した。