長距離トラックドライバーはどんな働き方をしているのか。元トラックドライバーの橋本愛喜さんは「長距離ドライバーは1週間以上家に帰れない生活が続く。このため定期的に病院に通うことは難しい」という。橋本さんの新著『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)からお送りする――。

「イモをくれたおっさん」は前歯がほとんどなかった
私がトラックに乗りたてのころの話をしよう。

当時女性トラックドライバーは今以上にレアキャラだった。長距離ドライバーともなればなおさらで、先頭で信号待ちをしていると、横断歩道で集団登校している子どもたちに指差されたり、高速道路で並走するバスの乗客たちから写真を撮られることもあった。

思い起こせばそのころから私はずっとやさぐれていたわけだが、そんな当時の自分に、くったくなく接してくれ、元気づけてくれた人たちがいる。「現場で出会った緑ナンバーのおっさんトラックドライバー」たちだ。

いつも同じ時間、同じSAPAに行くと、同じ顔触れのおっさんたちが私を待っていてくれた。何も食べてないと言えば、「あいきちゃん、ほれイモ食えイモ」と差し出すおっさん。

私が昔から歌を歌っていると言ったら、「いい歌知ってるから聞いてみろ」といって天童よしみのカセットテープをよこしてくるおっさん。「俺の息子の嫁になれ」と携帯に入れた若い男性の写真を見せてくるおっさんもいた。

そんな彼らに共通していたのは、よく笑うこと。

そして、その笑顔の口元に歯がないことだった。

イモをくれたおっさんにいたっては、前歯がほとんどなかった。年齢を聞いていたと思うのだが、覚えていない。しかし、みんな歯をなくすにはまだまだ若い50代前後だったはずだ。

「歯の治療」のハードルが高い
彼らに限らず、トラックドライバーには歯がなかったり、または歯に何らかの問題を抱える人が多い。根本的な要因は、やはり「家に帰れない」ことにある。

1週間以上家に帰れない生活をしていると、なかなかできないことが結構ある。「賞味期限の早い食品の買いだめ」や「子どもの面倒」、「回覧板の管理」などなど。そして、なかでも難しいのが「通院」だ。

地元の病院に定期的に通うことは、運行上、非常に難しい。

とはいえ、タイトなスケジュール管理、そして大型車を停められる駐車マスがないという問題から、運行中に訪れた見知らぬ土地でも、通院はもちろん、突然の発熱や腹痛で病院にかけこむことはなかなか難しい。

このような状況のなか、定期的に通えないという意味で特にハードルが高いのが「歯の治療」なのだ。

つづき
https://president.jp/articles/-/71222