静岡県の川勝平太知事(74)の名前に「リニア」の一語を加えてTwitterで検索すると、多数の批判ツイートが表示される。《静岡県の川勝知事だけがリニア開業を遅らせているのは事実》、《リニア開業を邪魔したのは静岡県と後世にも語られるよな》、《川勝静岡県知事は退陣してくれ》──という具合だ。

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 リニア中央新幹線で、JR東海は品川・名古屋間の開業を目指している。全長は286キロ、その9割がトンネルだ。

 工事は2014年に始まったが、静岡県内だけが着工できていない。当初、JR東海は品川・名古屋間の開業を2027年と発表していたが、JR東海の金子慎社長(当時)は定例会見で「(静岡工区で)いま始めても遅れを取り戻せない」と明言した。

 Twitterで静岡県が《開業を遅らせている》という批判が出る大きな理由の1つだ。とはいえ、地元紙の静岡新聞は真っ向から否定する。同紙は4月18日朝刊に「視座=リニア工事 混迷する『全量戻し』 JRはけじめをつけよ」との記事を掲載した。

「JRはけじめをつけよ」という見出しからも分かる通り、記事は川勝知事の姿勢を支持。《静岡県と川勝平太知事の「悪者論」が横行している》、《「静岡県がリニア工事を妨害し、孤立している」との印象操作がはびこる》などと指摘した。Twitterに噴出する世論も《印象操作》ということなのかもしれない。

3つのラウンド
 しかしながら《静岡県と川勝平太知事の「悪者論」》は根も葉もない《印象操作》によって生まれたものなのだろうか。リニアの開業を遅らせているのは紛れもなく川勝知事ではないか──リニア担当記者が言う。

「リニアの開業が遅れているのは、JR東海と静岡県が“水”の問題を巡って協議を続けているからです。かれこれ10年近くになります。報道関係者でさえ最初の時点から取材を続ける記者は少なくなりました。まして一般の人なら混乱して当然でしょう。改めて論点を整理するには、全体を3つのラウンドに分割すると分かりやすいでしょう」

 山梨、静岡、長野の3県にまたがる「南アルプストンネル」のうち、静岡工区は8・9キロ。第1ラウンドは「静岡県内でリニアのトンネルが完成すると、大井川の水は減るのか、減らないのか」という問題だ。

 第2ラウンドは「トンネルの工事期間中の一部期間(約10ヵ月と想定)において、静岡県の地下水が山梨県側に流れ出てしまう。これをどうやって静岡県に戻すか」という問題だ。

 そして第3ラウンドは「山梨県内のトンネル工事を行う際、ボーリングを使って基礎的な調査を行う必要がある。穴の直径は最大で35センチ、最小で12センチ程度。その際に山梨県内に湧き出る地下水を静岡県は静岡県の地下水だと主張しているが、これをどうするか」という問題だ。

原点は2013年
「お気づきの方もいると思いますが、ラウンドを経るごとに問題となる水の量はどんどん減っていきます。川勝知事は『静岡県内のトンネルで発生する湧水は一滴たりとも失わせるわけにはいかない。全量を静岡に戻してほしい』と要請しており、JR東海にしてみればそれを実現するべく様々な方策を発表しているというのが現状です」(同・担当記者)

 2011年から約3年間にわたって、リニア中央新幹線の環境アセスメント(影響評価)が実施された。読売新聞は同年12月7日朝刊に「リニア沿線の環境評価開始」との記事を掲載。《イヌワシやクマタカなど猛きん類の営巣などを調べる》現地調査を開始したと伝えている。

 2年後の2013年、静岡県は「リニア建設によって県内で水問題が発生する」との懸念を表明。静岡新聞は10月25日朝刊に「県、河川流量減を懸念 大井川水系『今夏以上の節水も』―リニア建設計画」との記事を掲載した。

《静岡市最北部の南アルプス地下を貫くリニア中央新幹線の整備計画で、県は24日、JR東海が予測する工事後の大井川水系の河川流量で試算した場合、渇水で取水制限措置を取った今夏以上の節水対策が必要になる可能性を示唆した》

つづき
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/07181100/