電気抵抗がゼロになり、マイスナー効果が観測される状態を超電導と呼びます。超電導は一定の温度以下で生じる現象と考えられていたのですが、「室温かつ常圧で超電導になる物質」を開発したという論文が公開され、大きな話題を呼んでいます。この論文についてはかなり懐疑的な声が挙がっており、各研究機関や専門家の同論文に対する意見がインターネットフォーラムのSpaceBattlesにまとめられています。

2023年7月22日、「室温かつ常圧で超電導状態になる物質」を開発したという論文が掲載されました。論文を発表したのは韓国の研究機関・Quantum Energy Research Centreの研究チームで、同チームは銅を添加した鉛材料「LK-99」を室温かつ常圧で超電導状態にすることに成功しています。

超電導は基本的にマイナス200度まで温度を下げることで実現すると考えられていましたが、Quantum Energy Research Centreの研究チームが開発したLK-99は、最大127度の環境下でも超電導状態を実現することが可能とされています。研究チームの開発したこれまでの常識をくつがえす超電導になる物質・LK-99について、科学雑誌のScienceが詳細に解説しているので、その特性などについて知りたい場合は以下の記事を参考にしてみてください。

常温常圧で超電導状態の物質を作ることができれば、「電子機器における効率的な動作の障害となっていた発熱の問題が解消され、CPUやGPU、メモリが従来よりも高速で効率的になる」や「リニアモーターカーなどの磁気浮上式鉄道が移動のための最も低コストな手段になる可能性もある」という意見もあります。

しかし、この論文はプレプリントサーバーのarXivで公開されたものであったため、検証の必要性が叫ばれていました。インターネットフォーラム・SpaceBattlesのユーザーは、研究機関や専門家が同論文についてコメントしたサイエンス関連の記事や論文をまとめています。

https://i.gzn.jp/img/2023/08/01/room-temperature-superconductor-verification/s01_m.png

左から、意見を述べた機関・国・主張の信頼性・進捗状況・結果・メモ・参考文献がまとめられており、「N/A」は該当なしを意味します。右端の参考文献には研究機関や専門家の意見がまとめられた記事や論文へのリンクがあり、メモ部分をクリックすると元の論文についての言及の引用をチェック可能です。

主張の信頼性が「高い」とされているものが6件(研究機関の意見が4件、アマチュア専門家の意見が2件)、主張の信頼性が「やや高い」とされているものが3件(アマチュア専門家の意見が3件)、主張の信頼性が「やや低い」とされているものが2件(研究機関の意見が1件、アマチュア専門家の意見が1件)、主張の信頼性が「低い」とされているものが3件(研究機関の意見が2件、アマチュア専門家の意見が1件)。

例えば、北京航空航天大学材料科学工学部の主張の信頼性は「高い」、進捗状況は「完了」、結果は「失敗、常磁性半導体が生成される」とされており、参考文献には2023年7月31日に公開された論文がリンクされています。この論文では超電導体を磁石の上に載せても磁気浮上が確認できていません。

他にも、インド国立物理研究所も複数回にわたり論文内容を検証していますが、ことごとく「失敗」しています。

他の研究機関のコメントでも「彼ら(Quantum Energy Research Centre)は本物のアマチュアのように見えます」「超電導についてあまり知識がないようです」「恐らく幻想であると我々は判断しています」といった否定的なものが多いものの、華中科技大学やアイリス・アレクサンドラ氏は検証に部分的に成功しています。

https://gigazine.net/news/20230801-room-temperature-superconductor-verification/