戦前、日本軍が侵略して中国東北部に建国した、かいらい国家「満州国」を舞台に人体実験や細菌兵器の実戦使用をした731部隊(関東軍防疫給水部)と100部隊(関東軍軍馬防疫廠〈しょう〉)。その二つの部隊の関東軍司令部作成の「職員表」が、戦後78年のこの夏、初めて見つかりました
▼731部隊の実態は、生存者の証言や研究者の努力で、その全体像の解明は進みました。他方、100部隊はハバロフスク軍事裁判での供述などがあるだけ。傷病軍馬の治療防疫の「研究機関」の内実は闇の中でした
▼職員表は、明治学院大学国際平和研究所の松野誠也研究員が「昭和十五年軍備改変に拠(よ)る編成(編制改正)詳報(其二)」という文書から発見。「国立公文書館に通い、粘り強く地道な資料調査を繰り返すなかでようやく見つけた」貴重な1次資料です
▼赤い字で「軍事機密」の印がある「軍馬防疫廠将校高等文官職員表」には、階級別に36人の氏名が。「獣中尉」の「逆瀬川貞幹(さかせがわ・さだもと)」ら戦後大学の獣医学部教授になった人物も多数います
▼どんな論文を書いたか。回想録があれば何を語り、なぜ語らないのか。闇の部隊が担った軍事的役割を探る地道な研究・検証はこれからです
▼岸田政権による学問・研究に軍事を持ち込む戦前回帰の動きが強まるなか、松野氏は危機感を強めて話します。「歴史研究者の使命とは歴史の真実、とくに悲惨な戦争の実態や加害の歴史の真実を明らかにすること。その過ちを繰り返さない土台をつくることです」