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ウクライナ・キーウで取材に応じる、駐ハンガリー大使に任命されたファディル・シャンドル氏(2023年8月21日撮影)。

【8月28日 AFP】大学教授から兵士に転身したウクライナ人のファディル・シャンドル氏は、塹壕(ざんごう)からのリモート授業で一躍有名になった。そして今また思いもよらなかった職務に就こうとしている。ロシアに友好的なハンガリーに駐在するウクライナ大使だ。

 ウジゴロド国立大学で社会学と観光学の教授を務めるシャンドル氏は、昨年2月のロシアによる侵攻開始後に志願し従軍。ただし戦争による教育の中断は望まないとして、塹壕でアサルトライフルを膝に置きながら、携帯電話でリモート授業を継続した。

 その姿を捉えた画像がソーシャルメディアで拡散し、「塹壕教授」との愛称で呼ばれるようになったシャンドル氏。授業中、背後に砲弾が落ちた際には、学生から「正気ですか?」と聞かれたと言って笑う。

■ゼレンスキー大統領と一対一の面接

 ウクライナ東部の最前線にいたシャンドル氏が撮影し、話題となった動画の一つがウクライナ外務省の目に留まった。自らのルーツ、ハンガリーにまつわる投稿だった。

 ウクライナ侵攻開始から1年半、ハンガリーは欧州連合と北大西洋条約機構の加盟国でありつつ、ロシアと友好的な関係を保っている。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は、西側諸国からウクライナへ供与される武器の通過を許可せず、両国の関係は冷え切った。

 そうした中、シャンドル氏は10月23日にウクライナ東部ハルキウ州の村で解放作戦に参加したと語る動画を投稿。1956年、旧ソ連に対してハンガリー市民が蜂起した「ハンガリー動乱」の日だった。

 シャンドル氏は、部隊の仲間と共に両国の国旗を掲げ、「ハンガリー人頑張れ!」と声を上げた。この後、ハンガリー市民からウクライナ軍への寄付が殺到するようになった。

 この動画にはもう一つ、シャンドル氏の故郷であるウクライナ最西端ザカルパッチャ(英名:トランスカルパティア)州に住むハンガリー系少数民族がロシアとの戦いに貢献していないとする考えを打ち砕く効果もあった。

 動画を見たウクライナ外務省は電話で、シャンドル氏のルーツや家族構成について尋ねてきた。「それから履歴書を送るように言われた」

 駐ハンガリー大使選考の最終プロセスは3月、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領との一対一の面接だった。

■困難が予想される任務

 シャンドル氏は同月中に駐ハンガリー大使に指名されたが、ハンガリー側のノバーク・カタリン大統領がそれを承認したのは8月に入ってからだった。

 首都ブダペストを拠点とするシンクタンク「ポリティカル・キャピタル」のクレコ・ペーテル氏はAFP対し、承認に時間がかかったことにも緊張の強さが表れているとみられ、「シャンドル氏に託される関係改善という任務は非常に難しいものになるだろう」と語った。

 また、ウクライナを拠点とする中欧戦略研究所のドミトロ・トゥジャンスキー所長は「シャンドル氏がキャリア外交官でないことは強みだ。過去のいさかいに縛られなくて済む」と述べ、同氏にとって関係改善の「チャンスは大きい」との見方を示した一方で、「ウクライナとハンガリーの関係の複雑さを考えれば、(映画「007」シリーズ)のジェームズ・ボンドでさえ一人で突破口を開くことはできないだろう」と話した。

 シャンドル氏は、首都キーウにあるウクライナ軍が鹵獲(ろかく)したロシア側の軍需品が展示された広場のそばでAFPのインタビューに応じた。

 戦時下の今、最も難しい外交ポストの職務にどう取り組んでいくつもりかという質問に対し、シャンドル氏は穏やかな口調ではあるものの、険悪な雰囲気を和らげていく意欲を示した。「オルバン氏はハンガリーの国益を守り、ウクライナはウクライナ国民の利益を守る。われわれは共通の立場を探っていく」 (c)AFP/Anuj Chopra

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