夫の浮気は甲斐性、妻の浮気は本気?
David Bussなど配偶者選択についての進化心理学研究によって、男性は体の浮気を許せない一方で女性は気持ちの浮気を許せないことを明らかにしている(Buss et al., “Sex differences in jealousy”, 1992, Buss & Shackelford, 1997, Shackelford et al., “Emotional reactions to infidelity”, 2000)。これは、男性は自分の子どもが残らないことを恐れ、女性は男性からの支援が打ち切られることを恐れているからだと考えられる。

なぜ、女性は精神的な裏切りを、男性は肉体的な裏切りを許せないのだろうか。これは、人類の歴史にも深く関わっている。農耕社会ができあがる1万年前までは、我々人類も狩猟採集社会であった。オスにくらべれば肉体的な能力が低く、妊娠・授乳・育児期間が長く、子どもの面倒に追われるメスはオスに食事の面倒を見てもらう、いわゆる、家庭内分業が合理的であった。すると、オスに養ってもらうためには、子どもがそのオスの子どもに相違ないとオスが確信できなければならない。オスへの一途さは自らの生活のために、メスへの一途さは自らの種を残すために必要な戦略だったので、オス・メス番の単婚制度は確立したのである。

男女の単婚ルールが表だって乱されると群内の協力関係秩序が壊れてしまい、群れの生存戦略上は不利となる。そこで狩猟採集民の社会(部族社会)では、男女の浮気・不倫は許されないとの強い規範が形成されていたと考えられる。すなわち、生きていくために助けあう必要があって単婚が重視され、不倫や浮気がタブーとなっていたのである。しかし、時代の発展とともに、他のオスに子どもを殺されもしなければ、日々大型肉食動物に捕食される恐怖におびえずに済むようにもなり、不倫や浮気が即座に死を意味することもなくなったのである。余裕があるからパートナー以外との恋愛に現を抜かすことができるといってもいいのかもしれない。

戦前存在した姦通罪ではより顕著であり、夫の不倫は相手が人妻である場合にのみ刑罰が科される一方で、妻の不倫は相手が妻帯者であろうが独身者であろうが処罰されていた。これはもちろん、戦前の家制度の影響や女性差別と主張することも可能だが、人妻の不倫は男女ともに罰せられることに鑑みれば、子どもの父親を明らかにするためとも解釈できる。

「托卵」という女性の戦略
では、不貞行為があって子どもができた場合にはどうだろうか。生物学の観点からも、男性と女性が大きく異なる点の一つは親であることの確証性である。女性は約10ヵ月もの妊娠期間を経て産んだのだから、まちがいなく自分の子どもと確証を持てるも、男性は自分こそ、この子どもの父親であるという絶対的な確証はない。

ところで、自然界の動物のあいだには、卵の世話を他の動物に任せる「托卵」という習性がある。とりわけカッコウの托卵は、自分の卵を別の鳥の巣に産み落とし、そこにいる母鳥にわが子と勘違いさせることで、卵の世話を任せてしまうというものである。ニック・デイヴィス『カッコウの托卵』(2016年)によれば、近年ようやくカッコウの托卵について詳細が明らかになってきた。カッコウのメスは体温の変動が激しく、自分で体温調節をするのが難しいために母カッコウ自らが卵を温めても孵化しない可能性が高い。カッコウはそのままでは生き残ることができないので、種としての生存競争に勝ち残るための戦略として托卵という習性を身につけたのである。

つづき
https://gendai.media/articles/-/104083