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エフゲニー・プリゴジン氏(Telegramより)

50代の夫婦が「プリゴジンは真の男」
 ロシア民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン(享年62)が、8月23日に謎の飛行機事故で亡くなってから1カ月以上がたった。6月の武装蜂起の一件を思い起こせば、死の理由は国際世論、衆目の一致するところだろう。だが、それゆえに、プリゴジンゆかりの地の光景は奇異に映るのである。

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 サンクトペテルブルク市の中心部から車で約30分、公営のポロホフスコエ墓地にプリゴジンの墓はある。墓地に近づくと「プリゴジンの墓はこちら」の案内がそこかしこに設けられ、それに従い歩を進めれば花に埋もれた、ロシア正教独特の十字架に行きつく。供えられた大きな花輪にはワグネルのエンブレムがあしらわれ、脇にはロシア国旗も掲げられている。

「墓の周辺はすでに花で覆われ、よその墓に足を踏み入れてまで献花する人もいます。花売りのおばさんに聞くと『遠方からも多くの人がやってきて、土日は特に混雑する』そうですが、私が取材した時も千キロ離れたブリャンスク州からきた50代の夫婦がプリゴジンを『真の男』とたたえていました」(ロシア在住ジャーナリスト)

ワグネルセンターにも献花が
 また、同市内、ワグネルの拠点だった「ワグネルセンター」にも献花は絶えない。武装蜂起の翌月7月1日にはその看板が撤去され、現在はもとのテナントビルに戻っているにもかかわらず、そして何より彼がクレムリンに弓を引いた反逆者であったとしても……。

 プリゴジンへの献花は、もはや「聖地巡礼」だろう。彼の墓には、ソビエトから亡命した詩人ブロツキーの詩の一節が掲げられ、そこでは彼がキリストになぞらえられる。体制批判だけで拘束されるロシアにあって、これらの動きが止まらないことは何を意味するのか――。

 9月13日、プーチン大統領はロシアを訪れた北朝鮮の金正恩総書記を出迎えた。米ニューズウィーク誌は、このシーンについて〈プーチンが見せた、金正恩に「すり寄る」弱々しい姿〉と報じるが、今まで歯牙にもかけなかった北朝鮮と何らかの軍事協定を結んだという情報も、あながち否定できない。

 いまだ戦争の出口は見えないが、もしかしたらロシア崩壊の兆しはすでに見え始めているのかもしれない。

「週刊新潮」2023年9月28日号 掲載

https://www.dailyshincho.jp/article/2023/09300601/