中国共産党系のタブロイド紙・環球時報は13日、「中国の原発からの排水に含まれるトリチウム量を誇大に喧伝するのは、単に注意をそらすため」だとして日本のメディアを激しく非難。「これは明らかに日本側の無謀な核汚染水放出計画から国民の関心をそらす試み」だとした。

日本経済新聞の英字メディア「Nikkei Asia」は9日、中国の原発が2022年、福島第1原子力発電所からの年間放出計画量の上限より、最大で9倍のレベルのトリチウムを含む排水を放出したと報じた。

中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は12日の記者会見で、日本側の報道に対し、「事実を歪曲し国民を誤解させている」と主張。「福島原発の事故による核汚染水は、世界中の正常に機能している原子力発電所からの排水とは性質が異なるというのが常識である」とした上で、関係メディアに対し、「このような非専門的で無責任な報道をやめるよう」求めた。

在日本中国大使館も同日、中国の原発の放出量は規定値を下回っているとし、「溶融した炉心に触れた福島核汚染水とは本質的に異なる」と反論する報道官談話を発表。日本側の報道が「世論を間違った方向に向かわせる」と批判した。

中国の原子力安全専門家が匿名を条件に環球時報に語ったところによると、福島第1原発から排出される〝核汚染水〟と稼働中の原発から放出される通常の排水は、「生成過程や放射性核種(物質)の種類の点で全く異なる」と主張。

現在、世界中の原発で、通常運転時にトリチウムを処理する適切な方法や技術は存在しないため、各国の原発で生成されるトリチウムは基本的にすべて放出されている。そのため日本は、「欧米諸国がトリチウムを処理できないことをよく理解した上で、注意をそらして無謀な放出計画への批判を黙らせるため、(中国の)トリチウム量を重要問題として取り上げている」と専門家は述べた。

だが、専門家は核心的な問題はトリチウムが最も重要な同位体(アイソトープ)ではなく、人間の健康に最も有害な同位体でもないということだと指摘。同紙は、「福島第1原発の処理水には他の放射性物質も多く含まれ、トリチウムだけに焦点を当てると、より深刻な問題があいまいになる」と、中国の専門家の話を引用した。

中国の公式資料である2023年版原子力専門書「中国核能年鑑」によると、22年に中国の原発から放出された排水に含まれるトリチウム量は、観測地点となった原発13基19か所のうち7割以上にあたる15か所の排水に含まれるトリチウムの量が、福島第1原発処理水放出計画の年間上限量の22兆ベクレルを超えていた。そのうち、浙江省の秦山原発が同年に放出したトリチウム量は202兆ベクレルと、処理水上限の9.1倍にも上った。

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