【ソウル=中川孝之】「地上の楽園」と宣伝された北朝鮮への帰還事業で訪朝し、劣悪な環境下の生活を強いられたとして、脱北した在日コリアン出身の5人が15日、北朝鮮政府を相手取り、1人当たり1億ウォン(約1100万円)の慰謝料を請求する訴訟をソウル中央地裁に起こした。日本在住の脱北者が日本で同様の訴訟を起こしているが、韓国での提訴は初めて。

 原告はいずれも韓国に住む高齢の脱北者。そのうちの1人で、8歳だった1960年に北朝鮮に渡った 李泰●イテギョン さん(71)は裁判所前で記者会見し、「私たちはみな無償医療や無償教育といった宣伝にだまされ、北朝鮮に送られた」と無念を訴えた。北朝鮮で在日コリアンは敵対階層と位置づけられ、弾圧や監視を受けたといい、「多くの人が収容所に連れて行かれた」と証言した。※●は「日」の下に「火」

 原告側の代理人弁護士によると、訴状は米ニューヨークにある北朝鮮の国連代表部に送る。勝訴すれば、外国にある北朝鮮資産の差し押さえも検討するという。

 帰還事業は日本と北朝鮮の赤十字社が1959~84年に行い、在日朝鮮人ら約9万3000人が北朝鮮に渡った。当事者やその子どもら数百人が脱北し、韓国や日本で暮らしている。

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