利払い費の増加が原因なのか
財務省は、長期金利が現行試算の前提である2.1%よりさらに1%上昇し、名目成長率の想定(3%)を超える金利水準となった場合、国の借金である国債の利払い費が従来見込みより8000億円も増えるとの試算を財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会に示した。この試算は何を意味するのか。

財務省の資料に記載されているのは、毎年の予算審議に合わせてまとめる「後年度影響試算」だ。従来試算では7年度の利払い費は金利2.1%で11兆1000億円だったが、金利が3.1%だと11兆9000億円となる。

従来試算では8年度の長期金利は2.3%、9年度は2.4%まで上昇するという仮定だったが、新たな試算では、こちらもそれぞれ1%上昇したケースを想定。その場合、8年度の利払い費は従来見込みより2兆円、9年度は3兆2000億円増え、15年度には8兆7000億円増に達する。

分科会後に記者会見した増田寛也会長代理は「金利の上昇による利払い費の増加が、財政の悪化につながるということが共有された」と述べた。はたしてそうだろうか。

一般論として、金利の変化により財務状況がどのように変化するかを把握することは極めて重要なので、金利変動リスクなどと呼ばれている。これを定量的に見通すために、金融機関などは、ALM (Asset Liability Management)と呼ばれる財務経営管理手法を導入している。

ALMとはなんなのか
これは国の財務管理にとっても同じだ。財務省も、財政投融資レポートという公式書類の中で、ALM(資産負債総合管理)として、〈「資産(Asset)及び負債(Liability)の総合管理」をいい、金融機関などにおいて財務の健全性を確保するために行われている経営管理手法の一つです〉とあり、「財投特会の財務の健全性確保」というタイトルで、〈財政融資資金においては、資金の運用(貸付けなど)と調達(財投債など)の間の期間のミスマッチに起因する金利変動リスクが存在しています。このリスクを低減させるため、的確な資産負債管理(ALM)に努め、貸付金などの資産と財投債などの負債のキャッシュフローから生じるギャップ(差)の解消に取り組んでいます〉とされ、ALMを導入していることが書かれている。

これは、筆者が今から30年ほど前の大蔵官僚時代に導入したものだ。ALMについてざっくりいえば、財政投融資資金(財投特会)のバランスシートを作って金利変化があったときにどのように資産と負債がどのように変化するかを定量的に把握して財務の健全性を確保するものだ。

その分析の中には、当然のこととして、負債サイドの支出の変化も含まれている。もつとも資産サイドの収入があれば、財務の変化はたいしたことないともいえる。ちなみに、筆者は30年ほど前に、ALMの書籍を当時の仲間と書いたが、今ではその本が中古本1万5000円で取引されているのには驚いた。

30年ほど前、筆者は精緻なALMを作成し、国の一部である財投特会のみに適用した。その上で、金利変動リスクについては、毎月理財局長に報告していた。

さらに、ALMシステム構築のためには国全体や統合政府のバランスシートも必要だったので、それらも作成した。ついでに簡易な手法で、国全体や統合政府の金利変動リスクも算出した。

その時、「後年度影響試算」は、負債の一部の支出しか算出していないので、財務分析には不適当であるといったはずだ。それが今も「後年度影響試算」をやっているのか、その結論を無批判に受け止めているのかとあきれてしまう。

現在の筆者に詳しい国の財務データはないが、現時点の統合政府で見れば若干の純資産超過であることを考慮し、統合政府で金利変動リスクを分析すると、金利上昇があっても、財務状況は好転もしくは横ばいではないだろうか。具体的にいえば、日銀からの納付金増、各種運用収益増などのその他収入増がほとんど利払費増を賄うはずだ。

つづき
https://gendai.media/articles/-/127408