【ヤマト―日本にとって沖縄とは何か】

4.「日本人」への作り替え
民族を規定する要件として、独立した言語と独自の歴史を重視するならば、琉球民族は別の民族である。信仰もまた、ヤマトとも中国とも異なる独自のものである。だからこそ琉球における皇民化政策は、琉球人を日本人に作りかえることを目的とした。
それは、琉球人の精神性を破壊することであった。沖縄では、自殺すると先祖伝来の墓に入れないといわれてきた。それほど命を大切にしてきた。「命どぅ宝」である。
日本では場合によっては死が美しいものとされ、天皇のため、国のために死ねと教育してきた。沖縄戦における日本軍による強制集団死は、日本人に作りかえられた究極の姿である。

沖縄戦においても、「沖縄住民が地上戦にまきこまれた」という叙述をよく目にするが、わたしは不適切な表現だと考える。住民は日本軍とともに南へ逃げる必要はなかった。現実に、とどまった人びとはアメリカ軍によって収容所に入れられ、命は助かった。
日本軍は本土決戦準備のために、沖縄での持久作戦を選択した。そのためには住民を米軍からの攻撃の盾にすることによって戦力を維持した。県民の多くは、「生きて虜囚の辱めを受けず」という日本人に作りかえられていたから日本軍とともに南へ逃げた。
女性や子どもを狙い撃ちした米兵もいたが、日本軍の前に住民がいると、やはり米軍も攻撃しにくい。住民はまきこまれたのではなく、日本軍の盾とされたのである。日本軍はみずからを住民に守らせたのである。

筑波大学名誉教授 千本 秀樹
http://gendainoriron.jp/vol.08/feature/f03.php